普通に映画レビュー2014年10月~12月

第533回「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」 (監督:幾原邦彦)
 鳳学園に転校してきた男装の少女・天上ウテナは、「薔薇の刻印」と呼ばれる不思議な指輪を手に入れたことで、褐色肌の少女・姫宮アンシーを巡って激しく戦いあうデュエリストたちの戦いに巻き込まれていく・・・
 「美少女戦士セーラームーン」や「輪るピングドラム」で有名な幾原邦彦が、クリエーター集団ビー・パパスを立ち上げて製作した「少女革命ウテナ」の劇場版オリジナル作品。原作は見たことありません。
 奇抜なヴィジュアルや、不可解な設定、同性愛・近親相姦といったタブーに踏み込んだ大胆なシナリオ、これに加えて演劇的な演出や作画の良さがあいまって、大変独特かつ良質なアニメーション作品に仕上がっている。一言で言うと、ハイセンス。一つ一つの台詞から滲み出る耽美な感じや、キレの良い演出は、見ていてうっとりする。ところどころ意味がよく分からなかったり、展開が急すぎたりもするけど、それも演出のうちというか、何もかもが絶妙に調和が取れた感があって、見ていてとても気持ちが良かった。終盤の展開は、それまでの流れからするとかなり意外だが、これがまた妙なアクセントになっていて盛り上がる。良き時代のアニメーション映画、という感じ。
 難解と有名な作品だが、大事な部分はちゃんと分かるように作られている難解さなので、とっつきやすいとも思う。これを機にアニメ版見てもいいかなとも思うけど、やや敷居が高くも感じる。アニメ史に残る名作の一つと考えて良い。見るべし。

第534回「サカサマのパテマ」 (監督:吉浦康裕)
 厳しい規律で統制されたアイガ国の少年エイジは、ある日”地面から落ちてきた”不思議な少女パテマと出会う。しかし、パテマは治安警察によって捕えられてしまい・・・
 「イヴの時間」を手掛けた吉浦康裕による完全オリジナル劇場用アニメーション作品。重力のかかり方が完全に逆であるがゆえに、空に落ちていく人々のいるファンタジー世界が舞台。「イヴの時間」が面白かったので期待していたが、やや肩すかし。
 一言で言うと、薄い。設定や着想は面白いのだが、キャラクターが誰も彼もどこかで見たことのあるようなのばかりで、魅力的に感じなかった。描くべきことの多さゆえに、一つ一つの描写が浅く、薄くなってしまうのはある意味しょうがないのだが、最初から最後までそんな調子なので、飽きが来るのも早かった。特別作画が良かったり、演技が感動的だったりするわけでもないので、結果として、凡作以下という印象が強い。
 特に悪役側に思想がなく、行動の説得力が皆無なのが気になる。こういうファンタジーにありがちな”悪い王様”の代名詞みたいなキャラで、子供が考えたようなセリフばかり言うので、出てくるたびに興醒めした。
 「イヴの時間」のキャラは、平凡っぽく見えて少し変わったところがあり、魅力的なメンツが多かっただけに、ギャップが大きい。吉浦氏には、この作品での反省を活かして、新作では頑張って欲しいところである。

第535回「映画ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ」 (監督:今千秋)
 大活躍中のハピネスチャージプリキュアは、ある日人形劇用の人形つむぎに誘われ、人形の国に旅立つ。つむぎは、プリキュアたちにサイアークの危機から国を救ってほしいと願うが・・・
 現在テレビ放映中の「ハピネスチャージプリキュア!」の劇場用アニメーション作品。監督は、「のだめカンタービレ」などを手掛けた今千秋。キャラデザ、作画監督は大田和寛。東映アニメーションにしては珍しく、メインスタッフを外部起用している。
 昨年からの傾向として、子供向けにしては重めのテーマを扱っている。足を痛めた少女つむぎは、「プリキュアにも救えないもの」の象徴として登場し、主人公めぐみは、自分の力の限界に葛藤する。このテーマを描き切るには、70分はやや短く感じる。ギャグパートなどもあるので、ドラマ部分は短めになってしまっており、ややもったいないと感じた。それから結末。難しいラインだけど、こうではない何かも見たかった気がします。
 一方で、作画の美しさがとても際立つ。本編よりも5割増しぐらいで可愛く描かれたキャラクターはとても魅力的だし、よく動くし、それだけで実は満足だったりw 特に舞踏会のシーンでドレスを着たメインキャラたちは要注目。ていうか、このクオリティで毎週放送してくれませんか?
 つむぎ、ジークといった劇場用新キャラも魅力的で、満足度高し。相変わらずのハイクオリティなので、ブルーレイ購入は確定です。オールスターズの新作、「春のカーニバル」はどうなるやら・・・w

第536回「THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 5章」 (監督:辻本貴則、田口清隆)
 実写版パトレイバー第5弾。今回はいつもお馴染み辻本監督のシリーズ最終作「遠距離狙撃2000」と、エピソード0以来の登場となる田口監督による「クロコダイル・ダンジョン」を収録。前回の微妙な感じを払拭できるか!? 色々な意味で、期待通りの内容でした。
 <エピソード8>:公安外事3課からカーシャに与えられた任務は、ロシア高官暗殺の阻止。即ち、暗殺者のカウンター・スナイピング。しかし、この暗殺者にはある秘密があった・・・
 カーシャを主人公に据えたシリアスドラマ。かつての師を狙撃するため、彼がどこからどうやって暗殺を企んでいるのかを、カーシャが“孤独”に捜査していく。スナイパーライフルに関するウンチクやゼロインのシーンが妙にマニアックで良いのと、狙撃主同士の静かな戦いが見もの。これまでの作風は何だったのかと思わせられるぐらい真面目なお話なのだが、やっぱりアホなテイストも健在で、「ゴールゴー♪」とか言いながら茶々入れてくる隊員の姿には、苦笑せざるを得ない。もちろん、これは、良い意味なのだけど。
 にしても、太田莉菜という女優はすごい。めちゃくちゃ真面目だし、雰囲気あるし、これで子持ちってんだから、ぶっちゃけありえない。真野ちゃん、存在感ないぞ!!頑張れ!w
 <エピソード9>:旧特車2課棟があった埋立地から連れ出された白ワニが、推定2億の真珠を体内に蓄えていたことがニュースになる。これを聞きつけた整備員たちは、封鎖された埋立地地下へと潜入。しかし、彼らが戻ってくることはなかった。そして今、二課隊員たちがレスキューミッションに挑むが・・・
 テレビシリーズからのファンにはお馴染みの「地下迷宮」シリーズ、まさかの第3弾。元々田口監督という人が「黒い三連星」を実写化したいと言っていたのだが、何の因果かこちらが実写化される流れになったらしい。驚くことに、話はちゃんと地続きになっていて、アニメ版へのオマージュも随所に見られるのだから、驚き。
 話としては、「しっかり面白くない」というか、撮影にかかった費用、労力と見合わないチープなノリといつも通りの残念な展開で、もはや一般受けは絶望的なのだけれど、そのテイストが逆に安心感を生んでいる気がして、逆にじっくり見れてしまう不思議。どんどん悪い状況に追い込まれていく隊員の姿が、なぜか頼もしい。
 こういう話は、パトレイバーだからこそだと思う。満足度は、割と高いです。
 という感じで、5章終了。今回は、期待通りと期待はずれ、両方ありながら、満足度は高いです。そして、次月はついにレイバー戦が描かれるとな!? レイバーが出ない方が面白いことで有名なパトレイバーシリーズですが、こういう展開も嫌いじゃないです。楽しみ。

第537回「溶解人間」 (監督:ウィリアム・サックス)
 カルト映画を専門としてソフト販売をする「スティングレイ」から人気ホラー映画が販売開始! 今回は、70年代後半を賑わせたB級ホラー作品だ! ということで、Amazonでの注文待ったなしでした。
 ベム、ベラ、ベロではなくて、溶ける方の「溶解人間」。土星探索から帰還した宇宙飛行士は、原因不明の事故により、肉体が溶けはじめていた。そして、なぜか人肉を食い漁る化け物に変化してしまったのである。溶解人間ことスティーブの友人であり医者でもあるネルソンは、彼の行方を突き止めるため、ガイガー・カウンターを片手に森をさまよう。
 普通に見たら面白くない作品です。演出は凡庸、展開はありがち、テンポは悪い。それでも異様に気合の入った特殊メイクと、たまーにキラリと光る悪趣味なセンスが作品に”幅”を持たせていると感じる。滲み出る製作者の苦悩や作品を完成に導く努力が、画面の奥に見えるような気がします。このセンスがもっと活かされていればなぁw
 川を流れる生首をゆーっくり追っていくシーンが、妙に頭に残る。これだから映画馬鹿は愛される。マニアは必見、素人お断りの問題作。

第538回「コードギアス亡国のアキト 第2章「引き裂かれた翼竜」」 (監督:赤根和樹)
 06年に放映されたテレビアニメ「コードギアス」シリーズ最新作。全4章を予定している「亡国のアキト」シリーズは第二弾。前作を見たのが13年4月なので、一年半ぶりの視聴となります。
 アキトらによって捕縛された3人のイレブンは、弾道ミサイルを利用したユーロピアの敵地強襲作戦への参加を命じられるが、これに逆らおうとして一計を案じる。一方で、部隊長レイラ・マルカルは、「誰も死なせない」ことを約束し、彼らを説得しようとするのだが・・・
 今回もすごい、というか、今回から本格的にブーストしてきたなぁという感じ。キャラクターの関係性が見えてきたり、謎が増えてきたことで、一気に物語が軌道に乗ってきた。一番の見せ所である戦闘シーンも大幅に増えていて嬉しい。3DCGを駆使して描かれるNFの戦闘は、繊細かつ大胆。これだけでも一見の価値がある。それだけでなく、ストーリーのメインストリームである作戦は、ブリーフィングから遂行までがじっくり丁寧に描かれているため、大変臨場感高く楽しめる。こういうのが”見たいロボットアニメ”だなと思う。
 アニメならではのお約束とか、説明不足とか、色々あるけど、ノリが良いから良し!とも思う。そういう側面も少なからずある作品ですが、これまでのギアスを楽しめた人なら間違いなく楽しめるかと。3章は、15年夏公開らしいですが、ファンに忘れられてないことを祈りますw 続きも期待!

第539回「ケルベロス 地獄の番犬」 (監督:押井守)
 特殊機動警察「ケルベロス」の叛乱事件から3年。出所した元隊員である乾(藤木義勝)は、騒乱の最中国外逃亡した部隊長都々目紅一(千葉繁)を追って台湾へ飛ぶ。乾は紅一の愛人と呼ばれる少女タンミーと出会い、紅一を追う旅を始めるが・・・
 巨匠押井守がライフワークとする「ケルベロス」シリーズの第二弾。前作「紅い眼鏡」のミッシングリンクとなる作品で、近年DVDソフトとして再販されたものを購入して視聴。やっぱり、押井作品はいいな~というのが、率直な感想。
 ”忠誠”を誓うべきものに裏切られ、当て所なく彷徨う男。故郷を離れて辿り着いた台湾の街並みは、どこまでも非現実的で、自分という存在が霞んで見える。不思議な少女タンミーの後を追い、ただただ進み続ける道の先に未来はあるのか? 旅はいつまでも終わらないように感じられる。時間は止まって、心には冷たい風が吹いて、それでも太陽は熱く照りつける――― ここにある押井哲学は、哀しさと空しさの美学だ。純粋すぎるがゆえに世界を拒絶した男の鎮魂歌だ。
 思うに、男という生き物は馬鹿でどうしようもない。ゆえに、いつでも自分を従わせる何かを求めていて、その意味で、非常に犬的なのだ。これは生き様であり、サガなので、もうどうしようもない。この作品は、そのどうしようもなさが非常によく描かれている。すごくゆっくり流れる時間を、言葉少なく追っていく物語の運び方は、この哲学が宿る媒体としてピッタリだ。どこまでも頽廃的で、ノスタルジックで、物寂しい。対照的に、クライマックスは劇的で、暴力的。この緩急の中に、映像作品としての面白さがある。
 今まで見ていなかったことが恥じられる。押井作品としては、らしさがよく出ている。ファンは必見。

第540回「キャスト・アウェイ」 (監督:ロバート・ゼメキス)
 「フォレスト・ガンプ」を監督したロバート・ゼメキスとトム・ハンクスのタッグ作品。制作は2000年。
 世界を股にかける運送会社フェデックスの管理職チャック・ノーランド(トム・ハンクス)は、原因不明の飛行機事故により、無人島に漂着する。漂流したいくつかの荷物と、ココナツしかな島で、チャックのサバイバル生活が幕を開ける・・・
 本編のほとんどがトム・ハンクスによる一人芝居。無人島の生活に絶望し、時に希望を見出し、また絶望し・・・この繰り返し。バレーボールを人間に見立ててまで自分を鼓舞する姿は、非常に憐れだが、一方でどこか滑稽でさえある。1分1秒を争う「時間」の世界に生きていた男が、生きるためにもがき続ける姿には、妙なシュールさがある。
 生きるための様々な工夫やアクシデントの連続などが中心となる無人島のシーン。この静かな迫力も魅力的だが、チャックが島を脱出してからの描写が長いのも、この作品の特徴だ。現代版浦島太郎になったチャックを待っていた現実は、あまりにも残酷。「予想通りすぎる」からこその残酷さ、とでも言えるかもしれない。かつて愛した恋人は、今・・・ この続きはあえて書かないでおくが、まさに胸をえぐられるような感覚を持った。人は何のために生きるのか。そんな壮大な話に勝手にしてしまっていいのかとも思うが、この映画はそういう映画だ。
 ややキレイゴト的感動感(?)があるので、すっきり良かったと言い切れないのだが、ずっしり心にのしかかる独特の感じは良いと思う。「よくある感動」と言われれば、確かにそうかも、とも思う。

第541回「THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 6章」 (監督:田口清隆、湯浅弘章)
 実写版パトレイバーもセミファイナル。7章は、GW公開の長編作品の前哨戦となる予定なので、実質的にこれまでのシリーズの総括的なポジションにあたる。エピソード10は、実質的に初のレイバー戦を描く「暴走!赤いレイバー」。そして、エピソード11は、明の過去が明かされる「THE LONG GOODBYE」。
 <エピソード10>:テロリスト蜂野が脱走をした。一路新潟を目指す彼の目的は、極秘裏に運搬されたソビエト製軍用レイバーRT99の強奪。これに対応すべく、明と佑馬は新潟へと出張することになるが・・・
 これまで何のかんのでやってこなかった「レイバーvsレイバー」をテーマに、激動の一夜を描いた一本。かなり短い時間ではあるが、レイバー戦は確かに凄い。ロボットは皆フルCGで描かれるわけだが、全くCG感を感じさせないリアルな作りこみには脱帽。あまりにリアルすぎて、逆にインパクトが薄いと感じられるほどである。
 一方で、そこに至るまでのドラマがかなり物足りなくて、いまいち盛り上がりきらなかった。せっかく再登場した蜂野もあんまり活躍しないし、明と佑馬の話も、なんだか煮え切らない。
 メイキングの方が楽しめるという、やや残念な感触。やっぱり、レイバーが動かない方が面白いんじゃなかろーか?w
 <エピソード11>:明の元に届いたのは、高校の同窓会の招待状だった。宿直当番にあたる日にもかかわらず、佑馬は明をそそのかし同窓会へと向かわせる。そこで明は、喧嘩別れしていた友人・高遠と再会する・・・
 エピソード10に対して、こっちは完全にレイバーのレの字も出ないようなエピソード。これまでほとんど描かれてこなかった主人公(?)明の過去や内面にクローズアップした青春劇である。
 過去のシーンを何度もフラッシュバックさせながら、じっくりと描かれる人間ドラマ。若いころの、甘酸っぱい(と書くのは何だか恥ずかしい)思い出と、そこから少し変わった大人の明。未来への不安と希望。清濁入り混じる中、夜の町はいつまでも明るく光っている。
 ・・・とかそれっぽく書きましたけど、正直よう分からんかったです。雰囲気は良さげだし、何かはじわっと伝わってくるのだけど、この話は何の話なのか、私の中ではあんまりはっきりしていません。作品のせいというよりは、私の理解不足な気がしています。でも、人の青春なんて、そんな簡単に分かるものではないということなのかもしれない。「ろくでもない奴が、やっぱりろくでもない奴だと分かった」話なんだろう・・・と思っているのだけど、何となく腑に落ちないところも、あったり。人の出会いと別れは不思議なものだ・・・というと、少し乱暴すぎる気も、したり。
 というわけで、6章でした。
 確かに、ある意味集大成な1本。良いところも悪いところも、共に集約されている感じはする。この味わい深さは、もうちょっとちゃんと噛み締めたいと思った。ともあれ、次でラストなんですよね。次は激情でのブルーレイ販売はなしとのことなので、しっかり映画観で見てみたいと思います。

第542回「トーキング・ヘッド」 (監督:押井守)
 2ヶ月後に公開を控えたアニメーション映画大作「トーキング・ヘッド」を手掛ける監督丸輪零が失踪した。「私」(千葉繁)は、プロデューサーからの依頼を受け、この曰くつきの作品を公開に導くべく、暗礁に乗りかけたプロジェクトに関わり始めるが・・・
 押井守による実写監督作品。映画制作の舞台裏を、かなり挑戦的なタッチで描いている。色々語るべきところのある作品だとは思うのだけど、私はほとんどついていけなかった。
 物語の進行とともに、なぜか殺されていく製作スタッフたち。事の真相を明らかにする動きがあるようでなく、あれよあれよとよく分からないままにシーンばかりが繋がっていく。「物語」としての映画ではなく、「映画」としての映画であろうとしたこの作品は、映画を作るということに内包される矛盾をテーマにしている。それってどういうこと?と聞かれても、私もよく分からない。とにかく、哲学な映画である。(とてつもなく、投げっぱなしな表現だが
 映画を作ろうとすること自体を映画にしようとすると、当然ながら、「映画を作ろうとしている人たちの映画」を自分たちが作ろうとしなければいけない。製作者は、映画を作ろうとしている人たちを描くために、映画から一歩遠のかなければいけないのだけど、遠のいた先がまた映画を作る現場であれば、結局自分たちが作り上げようとしている映画が、描きたい映画そのものなのか、また別の自分たちの映画であるのか、境界が非常に曖昧になる。映画を作ろうとすることは、とりもなおさず、現実的でないということだと思うのだが、はて、その解釈で良いのだろうか。
 もう何度か見てみたいと思うのだけど、割と気力も体力も使うので、素人にはおススメしません。映画好きなら、理解できるまで見た方がいいかな、どうだろう。

第543回「仮面ライダー×仮面ライダー ドライブ&鎧武 MOVIE大戦フルスロットル」 (監督:柴崎貴行)
 現行放映中の「仮面ライダードライブ」と、昨年度放映していた「仮面ライダー鎧武」の競演で送る毎年恒例のMOVIE大戦シリーズ最新作。前作からレジェンド勢の登場がなくなったが、今回も完全に鎧武とドライブのみの構成。詰めるべき要素を詰めるべき尺できっちり詰めてきたという意味で、満足度の高い作品に仕上がっている。大きく3部構成なので、一つ一つ見ていきたい。
 鎧武篇「進撃のラストステージ」: 宇宙の神となり、地球を離れて新天地で暮らす紘汰の元に、機械生命体メガヘクスが襲来。舞をさらい、地球を機械化することを宣言して飛び去っていったメガヘクスを追う紘汰だが、激闘の末爆散してしまう。そんな折、残された沢芽市のヒーローたちが、再び立ち上がろうとしていた・・・
 これタイトルどうにかならんかったんかw まあよい。内容は中途半端なところもあるけど、とにかくアツい! 紘汰の爆散に始まり、龍玄の激闘(舞救出!)、斬月の復活、そして再び立ちはだかるデューク! 「鎧武」というタイトルながら、主に活躍するのは脇役たち。これが堪らないんです。テレビシリーズを追ってきた身からすると、呉島兄弟の共闘はそれだけで目頭が熱くなるし、メカ戦極凌馬の登場にもニヤニヤが止まらない。即ち、絶妙に「分かってる」脚本なんですよね。
 本編の後日談としても非常に上手く機能しているし、アクションもカッコいい。鎧武登場からは若干グダってしまったような気がするので、ここでもっとアツく盛り上げてほしかったという意味で、中途半端さも感じる。でも、前回の劇場版の出来を払しょくする内容だとは思います。
 ドライブ篇「ルパンからの挑戦状」: 世間を騒がす怪盗アルティメット・ルパンが挑戦状を叩きつけた相手は、泊進ノ介こと仮面ライダードライブだった。その目的は、「仮面ライダー」の称号の奪取。彼の正体は、ベルトさんがかつて開発した強化ロイミュードだった・・・
 これもタイトルどうにかせえよw というか、ルパンて・・・綾部て・・・という前評判とは打って変わって、割と良作だったと思う。ベルトさんの過去であるとか、本編に登場しているチェイスの正体に関わる謎であるとか、物語における重要なファクターがじゃんじゃん出てくるのもそうだし、「仮面ライダーとは何か?」ということをテーマにしているので、話としては相当濃い。泊進ノ介が本当の意味で「仮面ライダー」になるエピソードとして、及第点の出来。
 ただ、やっぱり「なんでルパンやねん」というのは思うし、「なんで綾部やねん」というのは、思うよね、それは仕方ないよね! 最後の方の展開がやや強引なのも残念。何かアツいしまあいいか!とも思うけれど。
 ルパンはまた本編にも登場しそう。実は、良いライバルキャラです。
 MOVIE大戦篇: 鎧武とドライブが合流しての大合戦! メガヘクスをやっつけろ! という、単純な部分だけど、細かいところが凝ってて全然気が抜けない。仮面ライダーバロンの復活、鎧武チーム4名初の共闘! ドライブアームズとタイプフルーツ、そして最後はトライドロンで宇宙決戦。盛りだくさんすぎですw 特に最後の宇宙決戦は面白かった。進ノ介と紘汰って、実はめちゃくちゃ気が合うみたいで、アドリブ込の掛け合いが面白すぎるw 今更過ぎる果汁ブシャー攻撃とか、意外すぎる攻撃方法にも目を見張った。笑えて燃えれる良パート。
 と、いう感じで、どこも押さえるところはしっかり押さえてある良作でした。ドライブについても、本編の序盤は微妙やな~と思っていたけど、キャラが立ってきたし、役者の演技力も上がってきたしでどんどん面白くなっている印象。これからの展開に期待!!

第544回「映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!」 (監督:高橋滋春、ウシロシンジ)
 妖怪ウォッチがなくなった! 人間界を乗っ取ろうとする何者かの仕業と見たケータたちは、手がかりを得るべくケマモト村に。そこで出会った妖怪フユニャンは、ケータたちを60年前の過去に誘う。そこではケータの祖父であるケイゾウの姿が・・・
 大人気「妖怪ウォッチ」初の劇場用作品。乗るしかないぜ、このブームの波に!とばかりに見に行ってきました。内容は、まずまずと言ったところです。
 奇想天外な発想と、「誰をターゲットにしてるんだ」と首を傾げたくなる面白演出で好評のアニメシリーズと打って変わって、割と普通に劇場版してる感じ。短い中でいかに爆発的に面白くするかを狙ってるアニメシリーズからすると、ややのったりとしたストーリーテリングなので、ノリに慣れてくるまではやや退屈に感じるかも。ただ、相変わらずジバニャンやウィスパーのキャラは面白いし、ギャグもスパイスが効いているので、飽きたりはしない。新キャラであるフユニャンもカッコいいし、後半の妖怪大集合なんかも含めて、初の映画版として十分楽しめるレベルである。
 というより、もはや社会現象といって差支えのないレベルのブームになっている作品を、その渦中にいる子供たちと一緒に見るということに意味がある作品。作品そのものの出来がどうなんてことは、実はどうでも良かったりするんです。とにかくこの勢いに乗って見てみれば良い。でも・・・とにかく、すごい人の量だった! 小学校にいる気分でしたw
 来年も映画やるらしいので、見に行ってもいいかなとは思う。今年一年で、このシリーズがどう転んでいくかは、見ものです。

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普通に映画レビュー2014年7月~9月

第525回「バッド・テイスト」 (監督:ピーター・ジャクソン)
 「ロード・オブ・ザ・リング」を手掛けたことで知られるピーター・ジャクソンのデビュー作。その名の通り、非常に悪趣味(bad taste)な作品です。
 海辺の小さな町の住民が、何者かによって抹殺された。宇宙人が犯人と見た政府は、対策チームを派遣。しかし、些細なミスがあらぬ展開を生み、あれよあれよと血みどろの抗争に発展していく。勝つのは地球人か、宇宙人か!
 とにかく、色んなものがナンセンス。宇宙人と称される人々は、なぜか全員水色のシャツと青ジーンズをまとい、およそ宇宙人らしくなく振る舞う。鈍器で殴りかかってきたり、重火器を使ってきたり。しかも、彼らの行動目的は、実は人肉を使った宇宙系ファースト・フード店の展開だとか。なんじゃそりゃ!と言いたくなるんだけど、「金のない映画馬鹿が頭ひねって作った作品だ」と言われれば、ああなるほど納得できる。そういう愛情は、すごく滲み出ている作品です。
 中でもグロテスク描写へのこだわりは凄く、技術こそないが、いや~なものがジワジワと感じられる。中でも登場人物の一人、デレクの脳みそに関する描写は特筆すべきものがある。当時これを若造がニヤニヤしながら作っていたかと思うと、微笑ましいというか何というか。
 ちなみに、ジャクソン監督は、宇宙人の一人として登場。名演技です。彼のファンは必見だけど、素人にはおススメできませんw

第526回「THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 3章」 (監督:辻本貴則、押井守)
 実写版パトレイバー第3弾。今回のエピソードは、前作でも監督を務めていた辻本氏による「エピソード4:野良犬たちの午後」と、待ちに待った押井御大による、「エピソード5:大怪獣現る 前編」。それぞれレビューします!
 <エピソード4>: タイトルから分かるように「狼たちの午後」のパロディ。湾岸地区にあるコンビニ「Max Weber」が何者かによって占拠された! 特車二課隊員たちは、上海亭以外の唯一の食糧源の危機に立ち向かう。
 コンビニの名前からしてもう既にハイセンスなのだが、ちょこちょこ入ってくるギャグ、展開も、とても粋で面白かった。次々に犠牲になっていく隊員の姿や、二課と警備部の内輪もめなど、パトレイバーらしいグダグダ感も味わえて、やっと「スタンダードなエピソード」が見れたなという感想があります。突き抜けた爽快感はなく、何がしたいのかもよく分からないけれど、これがパトレイバーだと言われれば、そうなんだろうなと言わざるを得ない。そんな、変な説得感のある一本です。
 ちなみに撮影のためにコンビニ一個丸々作ったらしいですけど・・・そんなお金、どこから出てくるんだ!?w
 <エピソード5>: 昭和の一大歓楽地熱海に異変が起こる。急落する漁獲量、失踪するサーファーたち。後藤田の大学時代の後輩・七海言子の予言が的中し、海中から謎の巨大生物が姿を現した。特車二課は、厳重な警戒態勢を敷くが・・・
 待望の押井監督作品。この人は、本当に海の怪獣を撮りたがるなぁ。なんなんだ、この執念はw お得意のウンチクも、熱海という町に対して炸裂。謎の巨大生物を追うロマンと、中年女科学者の微妙で絶妙な倦怠感、特車二課のお気楽ダラダラな日常が、絶妙にブレンドされて、「押井作品」の味わい深さを生んでいる。
 前後編なのでまだ何とも言い難い・・・と言いたいところだけど、そうでもなく、これ単体でも割と楽しめるし、押井ファンならそもそも話とかどうでもいいんじゃないかな?とか思ったりも。地味にだが、冨永み~なと古川登志夫がゲスト出演。話している内容が前立腺・・・って、この辺りもさすがだなぁと思います。
 というわけで、もう3章か~と思ったり、まだ3章かと思ったり。とりあえず、次回もメチャクチャっぽいので楽しみです。これ、本当に最後まで公開されるんだろうか・・・という不安はありますけどねw

第527回「烈車戦隊トッキュウジャー THE MOVIE ギャラクシーラインSOS」 (監督:竹本昇)
第528回「劇場版仮面ライダー鎧武 サッカー大決戦! 黄金の果実争奪杯!」 (監督:金田治)
 恒例、夏のスーパーヒーロー映画シリーズ。平成シリーズも今年で15年目。勢いは留めることを知らず・・・と思いきや、今年は結構微妙でした。
 トッキュウジャー: 宇宙からやってきた烈車:サファリレッシャーを守るための一悶着。感想は・・・良くも悪くも「いつも通り」で、昨年のキョウリュウジャーのようなウルトラハイクオリティは鳴りを潜めていると感じた。アクションに関しては割と良い出来だが、持続しない。劇場版なんだから、もっとバンバン乗り換えしまくったりすればいいのに、とちょっと不満もアリ。
 敵怪人をヒャダインにしたのは本気で謎w 演技も上手くないし、話題性もないし。もっと骨のある役者連れてきて欲しかったです。まいんちゃん(福原遥)もギリギリ。可愛いから許されるという、その絶妙な境界線上。まいんちゃんじゃなきゃ即死だったかも。
 鎧武: こっちはもう意味不明。サッカーが大流行している世界に紛れ込んだ鉱太。しかし、相次ぐ仮面ライダーの変死が、戦いを生んでいく。その裏で動く“黄金の果実”の正体とは・・・? みたいな感じのお話ですが、とにかく進行が雑でげんなり。一言で言うと、「面白くない」んだけど、それを説明するのも面倒という感じか。あと、劇場版サービスがないのも残念。鎧武の新アームズとかはまあ良いんだけどさ、それでドヤ顔でされてもっていうのは、ある。もっとド派手なのじゃないと、見れたもんじゃないですよ。
 11vs11の最終決戦もかなり謎。なんだそれ、誰が見たがってるんだ、これw 久々に「誰得」という言葉が頭をよぎりました。あまり好きな言葉じゃないんですが。
 物語に引き込んで、盛り上げて、楽しませる・・・というような、作劇の基本がなってないので、純粋に面白くないです。映画館にいる子供もかなり飽き気味で、例年以上に騒がしかった。何かとコラボやら変な特別篇が多い鎧武だけに、もっとストレートでシリアスな話が見たかったというのもあるね。とにかく、色々残念です。
 来年度に期待! 次回はまたMOVIE大戦よー。

第529回「ウルヴァリン:SAMURAI」 (監督:ジェームズ・マンゴールド)
 第二次大戦時、長崎の核投下から青年将校ヤシダを助けたローガン。それから半世紀余り、日本刀を持った女性ユキオがローガンの元に訪れる。彼女は、日本で急成長した大企業グループ「矢志田産業」の使いだった。ヤシダはローガンに、不老不死能力の交換を申し出る。
 映画「X-MEN」シリーズ、第6弾。原作「Wolverine」を脚色し、映像化した作品。シリーズの前日譚である「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」の直接的な続編、というわけではなく、むしろメインシリーズの後日談である。「SAMURAI」ってサブタイトルどやねん、というツッコミを誰もがいれるところだと思うが、このタイトルは、良くも悪くも、作品の”らしさ”を象徴していると思った。
 話の中心となるのは、ヤシダの孫娘マリコとローガンの逃避行で、彼女を守るだ助けるだ愛するだ~・・・というのが大筋。話としてはありがちで、特に気になるところはないが、舞台が日本であることで、色々笑えるし、妙に味がある。外人の少し変わった日本観をあえてリアルにせず、変わったまま映画製作に”使う”ことで、独特の非現実感というか、ファンタジックとさえ言える絶妙な空気感が味わえる仕様。東京、大阪、長崎を舞台に、寺やらラブホテルやら高層ビルやら、色々行くことになるのだが、どこにも本物の日本がなくて、うまーいことフィクションの日本を楽しめる作りになっているのだ。出てくるヤクザやら忍者やらも破天荒で良い。突っ込みながら、笑って見れる”架空の日本”。「”映画”を作ってるな~」と感心した。
 アクションはもうちょっと頑張って欲しかったと思う。和製ホークアイことハラダ(なんでカタコトやねんw)とか、侍にする意味ゼロなシルバーサムライとか、結局よく分からんまま死んだヴァイパーとか、要素は揃ってるんだけど、いまいち活かしきれてない気もするし、テンポが悪くてちょっと退屈なところもいくつかあった。
 決して、手放しに評価はできないけれど、こういう”エンターテイメント”は映画らしくて良い。嫌いじゃないです。「X-MEN」シリーズは穴ボコに見てるので、他の作品もちゃんと見てみようかな。

第530回「ジャッジ・ドレッド」 (監督:ピート・トラヴィス)
 95年にシルベスター・スタローン主演で映画化されたコミックのリブート作品。監督は、「バンテージ・ポイント」のピート・トラヴィス。
 核戦争後のアメリカ。巨大都市メガシティ1は8億人の人口がひしめき合う過密都市。ここでは日々犯罪が多発し、治安は常に崩壊寸前であった。この都市の治安を維持するのは、警察と司法の機能を併せ持つ裁判所であり、”ジャッジ”と呼ばれるエリート集団による”正義の執行”が、犯罪に対する大きな抑止力となっていたのだった。凄腕の”ジャッジ”であるドレッドは、新米ジャッジ・アンダーソンの試験を兼ねたミッションを任されるが・・・といったストーリー。
 メガロポリスにそびえたつ超巨大高層マンションを舞台に、ギャングとジャッジの抗争を描く。たった二人のジャッジと大量の犯罪者がどう戦っていくのか? というのが見どころだが、逆に言うと、それ以外はほとんど何もないシンプルな構成で、とにかく戦いに次ぐ戦いである。暴力描写はなかなかのもので、正義も悪も、儚い命の前に全く容赦ないのが印象的。肉や血がはじけ飛びまくります。また、ドレッドがあたかも完全無欠の”正義”そのものであり、人間性の描写がほとんどないのも特徴的だ。彼はただ戦うだけの存在であり、感情は愚か、その素顔さえ、全く描写されない。
 不思議な作品だな、というのが第一の感想である。物語と呼べるものはほとんどなく、ただ淡々と状況を処理していくドレッド。いわゆる”正義の味方”が持つであろう葛藤もなく、ただ残酷な暴力だけが淡々と執行されていく。これは何の表現なのか、何のメタファーなのか。深い何かがありそうだが、何もないような気もする。
 映像はややチープで、同系列の最新作からすると見劣りするが、ある意味年代モノ(というか80年代ぐらい)のアクション映画のような味わい深さもあって、これはこれで雰囲気があるなーとは思ったり。スローモーと呼ばれる麻薬の描写も、なかなか綺麗なので、見ごたえがないわけじゃない。
 ただ、やっぱり話の筋が淡々としすぎているので、カタルシスは少なめ。なんだかなーという感想も残る。悪くないけど、あんまり良くもないし、印象にも残りにくい作品でしたね。

第531回「THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 4章」 (監督:押井守、湯浅弘章)
 実写版パトレイバー第4弾。今回は、前作に引き続き押井御大による怪獣映画の続編と、エピソード3を監督した湯浅監督による「タイムドカン」の二本立て。それぞれレビューします。
 <エピソード6>: ガッ★編後編。アメリカ軍の介入、自衛隊の登場で、さらに困惑を極める熱海。その時、特車二課は・・・
 やっちまったなぁ!!、というのが大きな感想。本当に好き放題というか、何でもアリというか、とりあえず尺があるんだから全部やりたいこと詰め込もう!という魂胆が丸見えで、押井監督は楽しんだろうな、と。押井監督は。見てる方はほとんどついていけないんじゃないか。私もついていけませんでした。恐らく、途中に挿入される、「大怪獣熱海に現る」というショートフィルム、こっちをメインで作りたかったのではないか? このショートフィルムの出来はなかなか良くて、特撮ファンは喜ぶだろう。
 ただ、話としては正直よう分からんし(とはいえ、旧来のパトレイバーファンには「分からなくはない”分からなさ”」だとは思う)、これ前後編にすんなよーと言いたくなる。押井さんのラストエピソード、大丈夫かなあ・・・w
 <エピソード7>: 特車2課に突然かかってきた電話の主は、誰でもないただの爆弾魔を名乗った。次々に破壊される2課棟。犯人に立ち向かうため、彼らが取った手段とは・・・
 こちらは割とスタンダードなエピソード。爆弾を探すため2課棟をひっくり返すシーンが印象的。結構しっかりセットが作りこんであるので、やたらと臨場感がある。これは前のエピソードもそうなんだけど、セットはかなり出来がいいですね。特に、”汚い部屋”のリアリティ追及が凄い。
 その他は、特に取り立てることはないかなと思うけど、アホなシーンを安心して見られるという意味では良エピソードかも。
 ・・・という二本。エピソード7のほうは安定感あるんだけど、押井さんの6が期待外れな感じでちょっと残念、肩すかし。なんだかんだで毎月楽しんでるけどね! 次回も楽しみ。

第532回「AURA~魔竜院光牙最後の闘い~」 (監督:岸誠二)
 高校デビューを果たした佐藤一郎は、ある日忘れ物を取りに行くため学校に行くが、そこで謎のコスチュームに身を包んだ少女と出会う。彼女は、竜端子と呼ばれる謎のアイテムの探索をしているという。翌日、一郎の教室に彼女が姿を現して・・・
 「人類は衰退しました」の田口ロミオ原作。同タイトルの劇場版アニメ作品。タイトルからファンタジー色の強い作品かと思いきや、中身は実は高校を舞台にした青春劇。魔法使いや悪魔の存在する妄想世界から抜け出せないドリームソルジャー、いわゆる中二病がテーマ。自分の設定を貫き通そうとする良子と一郎の心の交流が描かれる。
 分かる人には、すごく分かる作品。逆に言うと、分からない人には本当によく分からない作品なんだろうな、と。子供の頃、自分の世界観と周りのギャップに悩んだ経験がある人は多いはず。自分に素直になれなかったり、人に合わせて生きている自分を窮屈に感じたり、本当に大事にしたいものを忘れてしまったり。この物語に出てくる少年少女も、そういう悩み、葛藤を抱え、不器用に生きていて、なかなか素直になれないでいる。
 こうした心の機微を、ある意味強烈に描いているのがこの作品。制服さえ着ず、ひたすら謎の言動を繰り返して生きる良子。そんな彼女に強烈な嫌悪感を示し、イジめを遂行する同級生たち。リアルだなと思う一方で、どうしようもなくフィクショナルな要素もあるのが微妙なところで、ここは賛否両論あるかと思う。具体的に言うと・・・良子やクラスメートのキャラはすごく”ラノベ的”だし、神殿にまつわる最後の展開も、リアリティとは程遠い。結局のところ、「中二病を題材にしたリアルドラマ」ではなくて、「中二病を題材にした中二病ドラマ」なのだが、そこを許容できるかどうかが読み手側に託されてしまっているあたりに、作品の”狭量さ”が表れてしまっていると感じた。
 と、言っても私はこういうの大好きですけどねw ファンタジーですよ、これは。オタク少年だったオタクたちに捧ぐ。良作。

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普通に映画レビュー2014年4月~6月

第514回「THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 1章」 (監督:押井守)
80年代後半から90年代前半にかけて一世を風靡した「機動警察パトレイバー」シリーズの最新作。「栄光の特車二課」から時を経ること10年以上。世代交代を繰り返し配属された”無能の三代目”の面々を中心に繰り広げられる物語。全7章(全12話)のうち、今回は第1章ということで、導入的位置づけの「エピソード0」と「エピソード1:三代目出動せよ」を収録。新生特車二課の活躍(?)が見られる。
発表された当初は、あまりの衝撃に思考停止してしまった「実写化」の報。しかし、実際封を開けてみると、これがなかなか良い出来で驚きました。この作品は、「パトレイバー」のDNAを正当継承している。
ストーリーは、アニメ版・劇場版から地続き。この時点で軽く衝撃的なのだが、社会的背景を含めた各種設定が非常に練り込まれた状態で物語が始まるからまたすごい。
レイバー自体がテクノロジーとして不要化してしまい、特車二課の社会的存在意義は、元々の底辺部からさらに地の底にまで落ちてしまっている。顔ぶれこそ変わってしまったけれども、一癖も二癖もある面々が集まって、懐かしい98式を”背景”に、ただダラダラと締りのない日常を送るというテンプレは相変わらず、過ぎ去った時間の後ろ側には、何となくの寂しさと無力感が漂っている。そういった絶妙な雰囲気の中に舞い込む、特車二課解体の噂と、今は無き(?)後藤隊長の”遺産”といった与太話。だが、それをどうすることもできず、誤報に翻弄され、犯罪者相手になけなしの予算を食いつぶす一撃をお見舞いする。そんな日常。・・・この何とも言えない感慨深さというか、味わい深さというか。感想は、「押井だなぁ」という一言に集約される。
「ロボットで戦う正義」を、どこまでもリアルに、どこまでも人間らしく描いた作品。ロボットアニメを実写化するという意欲的スタンスが、これからどう物語を開花させ、我々を楽しませてくれるのか。今後が非常に期待できる一本。次回は5月31日公開。どうやらエピソード2は時間軸としては1よりも前? 3は何と「鉄拳(ゲーム)」がテーマ? どうなってしまうのか、今からとても楽しみです。


第515回「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」 (監督:アンソニー&ジョー・ルッソ)
「マーヴル・シネマティック・ユニバース・シーズン2」の3作目。今回は、アメリカ本国で根強い人気と長い歴史を持つヒーロー、「キャプテン・アメリカ」=スティーヴ・ロジャースが主人公となる。超人的パワーや神の力、あるいはハイパーテクノロジーを駆使して戦う他のヒーローと違い、基本的には己の肉体だけを武器にして戦う、チーム一番の”常識人”。彼の魅力が、全開の一作。
物語は、シールド長官ニック・フューリーの死というショッキングな導入から始まる。シールド内部に潜む歴史の”闇”の正体とは・・・? 「誰も信じるな」というフューリーの言葉の真意とは・・・?
キャプテン・アメリカ誕生劇だった前作に比べると、よりキャプテン・アメリカという”ヒーローそのもの”が描かれているように感じる。アクションシーンの単純増加もそうだし、他の登場人物との掛け合いなどから、彼の人間性に迫る描写があるのも特徴的。中でも、謎の暗殺者ウィンター・ソルジャーや、ブラック・ウィドウとの共演は面白い。常識人ゆえに、”普通に”悩めるヒーローが、ここにいる。
展開がややのったりとしていて、クライマックスに盛り上がりきらないのが残念だが、例の盾を使った戦闘シーンはよりスタイリッシュになっているし、格闘戦もそれぞればっちり見ごたえがあったと思う。新たなサイドキックであるファルコンもなかなかカッコ良かった。(儂はてっきり、ファルコンアーマーをキャップが装備するものとばかり思ってたんだが・・・w
スティーヴが普通の人なものだから、変化球な面白さはあまりないけど、ド直球の真面目なヒーローものとしては及第点だと思います。これからどんどん続いていくシリーズの中でも、(おそらく)かなり大事な物語のターニングポイントとなりそうな作品でもあるので、シリーズのファンはやはり必見の一本です。なんだかんだ言いつつ、もう1回見たいなと思いますね。


第516回「アメイジング・スパイダーマン」 (監督:マーク・ウェブ)
「(500)日のサマー」を手掛けたマーク・ウェブによる、「スパイダーマン」シリーズ最新作。サム・ライミの三部作とは完全に切り離して、シリーズをリブートした形になる。高校時代のピーター・パーカーを中心に、ヒーロー・スパイダーマンの誕生劇をドラマチックに描く。
これは、傑作だと思います。亡き父に思いを馳せる思春期の青年。ほんの些細な反発から叔父をも亡くし、私怨から夜な夜な悪を成敗するヒーローに転身する。始めこそ不純なものを抱えながら戦うのだけど、次第にその心には純粋な正義が宿り始める。これは人が本当の心を手に入れていく物語であり、同時に子供が大人になっていく物語でもある。この構成が、まず良い。
主人公ピーターは、幼さゆえに犯した過ちにまっすぐ向き合おうとしている。しかし、道は険しく、どうしようもない力も世の中には存在している。それが彼の前に立ち塞がる”悪”であり怪人リザードなんだけど、それも単なる”悪者”ではなくて、逃れようのない運命みたいなものとして描かれているのが印象的だ。一方で、その力から彼を守るのは、人の良心。その姿は心ある他人であり、”家”であり、恋人でもある。これらを守るためにも、彼は身を挺して、戦おうとする。
力を持ってしまった者には、戦う義務がある。哀しみや苦しさを乗り越えた先に何があるのか? 分からないまま、人生は続く。そういったシリアスなテーマを掲げながらも、爽快なアクションでスカッと楽しめる一面もある。
非常に優秀なヒーロー作品と感じる。新生スパイダーマン、続編にも期待。


第517回「アメイジング・スパイダーマン2」 (監督:マーク・ウェブ)
ニューヨークの町で、今やスパイダーマンのことを知らない者はいなくなった。犯罪者は皆彼の名を恐れ、スパイダーマンは一躍時の人に。ピーター・パーカーは、大学を卒業。ガールフレンド、グウェン・ステイシーとの仲も良好。しかし、そんな彼の前にグウェンの父の幻影がチラつく。「グウェンに二度と近づかないと約束しろ」・・・。そして、動き出す、悪の影。
「アメイジング・スパイダーマン」の続編。キャスト、主要スタッフをそのままに、スパイダーマンの”その後”を描く。今回メインとなる敵は、元スパイダーマンのファン、電気技師のマックスことエレクトロと、かつての親友ハリー・オズボーンのなれの果てグリーン・ゴブリン。メインテーマはピーターとグウェンの恋仲の行方なんだけど、その物語と並行してハリー、マックスの苦悩が綴られていく。いわゆるところの”不幸フラグ”がジワジワと立っていく(ある意味ねちっこい)ドラマ構成が見事で、物語に引き込まれる感覚があった。
今回は、アクションが前回に増して激しく、特にエレクトロとの戦いはかなり燃えるものがある。一方で、前作のような少し落ち着き気味のアクションも好きだった身からすると、好き嫌いの別れるような感じかなとも思う。
と、全体としてはそんなに悪くないのだけど、不満もややあって、1作で一応のところドラマを完結させていた前作と違って、今回は続編へ残している余地がかなり大きく、消化不良感が強い。ハリー関係のことは、解決も何もほとんど動いていないし、むしろ今回はここメインでやって欲しかったんだけどなという思いも。
スタッフロール後のパートでは、今後”あのヒーローたち”と絡む可能性も示唆されているけど、個人的には別のヒーローたちと組んでほしかった気もするし、その辺も残念かなと。とはいえ、3もマーク・ウェブで続投とのことなので、2年後を首を長くして待つとしましょうか。


第518回「ゼロ・グラビティ」 (監督:アルフォンソ・キュアロン)
「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」を監督したアルフォンソ・キュアロンによるSF作品。3Dでの迫力ある映像が話題になった作品ですが、あまり良い感想を持っていません。
ハッブル宇宙望遠鏡の修理作業にあたっていた宇宙船のクルーに突如襲い掛かるパニック。爆破された衛星の破片が飛来し、クルーもろとも宇宙船を破壊。たった二人、生き残ったライアン(サンドラ・ブロック)とマット(ジョージ・クルーニー)は、地球に帰るため奮闘する・・・というのがアウトライン。
映画の冒頭からほとんど全部のシーンは宇宙空間が舞台となっており、またストーリーのメインとなるトラブルが発生するまでの時間が非常に短い。事件が起こってからも、状況は二転三転し続けるので、ほぼ初めからずっとパニック状態・・・即ち、”物語”や”ストーリー”はほぼないに等しく、ただひたすらに、危険な宇宙遊泳の様子が映し出されていく。
ここの映像自体は、とても刺激的で、純粋にすごいのだが、逆に言うと”それだけ”。ただ、この作品の厄介なところは、ドラマを廃した一種の”アトラクション”に徹しているのかというと、そうでもないというところ。パニックシーンとシーンの間に、ところどころ挿入されるライアンとマットの人間模様であるとか、突然思い出したかのように描かれる”人間賛歌”のテーマは、もともとなかった物語を補強するというよりは、より物語性の薄っぺらさを際立たせていて、とても下品に感じる。要するに、話も筋もないくせに、「感動させよう」という魂胆だけが丸見えなんですよ。むしろ3D映像技術のお披露目会に徹してくれた方が、100倍マシだったと思う。
”映画”という”映像を通じた人間描写”に徹するわけでもなく、”アトラクション”というただ映像技術の追及に徹するでもなく。作家としての哲学がないから、こういうことになるんだと思う。なので、面白いか?と聞かれればNOだし、見る価値があるかと聞かれてもNO。珍しく、否定的な感想ばかりが浮かぶ一本でした。


第519回「THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 2章」 (監督:辻本貴則、湯浅弘章)
実写版「パトレイバー」シリーズ第二弾。今回は気鋭の新人を監督に迎え、「エピソード2:98式再起動せよ」と、「エピソード3:鉄拳アキラ」の2つの物語を収録。それぞれレビューします。
エピソード2: 関節部への過負荷が原因で98式が故障。そこに警備部装備総点検の報が舞い込んだ。ここでレイバーを立たせられなければ、特車2課存続に関わる。整備班、不眠不休の五日間が始まる・・・という話。
敵に攻撃されたわけでもないのに、勝手に自滅し、勝手に崩壊の危機を迎える正義の組織は、特車二課以外ないだろうなぁ・・・w 常々最弱ロボの異名を欲しいままにする98式ですが、ここまで来ると笑えてくる。そういったパトレイバーならではのリアリズムを見せつけつつ、一方でオチがぶっ飛んでいるから侮れない一本。「ああ、このシリーズ何でもアリなんだな」と感じる一方、ここで着いてこれないと後がしんどそうにも思う。若干寒いところもあるけれど、アホでおもろいです。
エピソード3: ゲームでは負け知らずの明が遭遇したのは、鉄拳で次々と相手をなぎたおす「強いオヤジ(竹中直人)」。明はオヤジに勝負を申し込むが、コテンパンにやられてしまう。彼が語る勝利の思想とは何か? 再戦は、一週間後!
これまたアクの強い話です。パトレイバー関係ないしね。どちらかと言うと、「立喰師列伝」とか「獣たちの夜」あたりが好きな押井ファンにおススメの一本。押井オマージュを随所に挟んだ演出は粋。逆に言うと、このあたりのテイストを理解していないと、終始「?」な話だと思う。真野ちゃんは可愛らしいので、アイドルムービー的に見れるとも思う(私服姿が良いね)。
・・・という感じで、2章にしてものすごい人を選ぶ作品になっていると思う。で、パンフの次回予告見たら、またやらかしてるし! この路線、採算取れるんだろうか?とめちゃくちゃ不安になる。ともあれ、私はすごい楽しんでます。来月も楽しみだ。


第520回「PERSONA3 THE MOVIE -#2 Midsummer Knight’s Dream-」 (監督:田口智久)
劇場版「PERSONA3」シリーズ第二弾。約半年のブランクを経ての続編です。今回は、夏! 風花との事件があった直後から、風雲急を告げる10月までのエピソードを描く。敵性ペルソナ使い「ストレガ」や、新たな仲間であるアイギス、天田、コロマルが登場。出会いと別れを鮮烈に描くことで、今後の急展開を思わせる一本となった。
ストーリーは完全原作準拠。特に気になる変更等はなかったように思うが、とにかく展開が速いのは気になった。この辺りは、原作をやっていても、特に難しいなと感じるところ。タルタロスでの冒険、大型シャドウとの戦闘、そしてキャラクターたちのドラマがリンクして”いない”ので、一つの話として大変盛り上げにくい。結果、荒垣と天田のストーリーを主軸としながらも、その他の伏線が作中の随所に織り込まれるという話の作りになった。続きがあることを前提としているからまだ承服できるが、この作品一本のみで楽しもうとすることは難しく感じる。そこはある程度仕方ないと捉えた上で、しかしそれでも一つ一つのシーンはもう少し丁寧に描いてほしかった。作画ももう少し改善して欲しい。戦闘シーンについても、ここ!という見どころはないので、緊張感が目減りしている印象です。
緒方さんや中井さんの演技が一番の見どころかも。全体的にダウナー系の展開が続くP3ならではの差し迫った演技に震える。次回は、主人公、順平あたりに危機が迫るだろうので、そこは大いに期待しておきます。
次回、#3 Falling Downは、また半年後? 気長に待つとしましょうか。


第521回「ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス」 (監督:ピーター・ジャクソン)
「ロード・オブ・ザ・リング」を手掛けたピーター・ジャクソンによる初期作品。「ブレインデッド」に先駆けて作られた異色の人形劇。89年製作。
劇団「フィーブルズ」には、様々な動物が所属している。花形スター・カバのハイジ。演出家・キツネのセバスチャン。オーナー・セイウチのブレッチ。ステージマネージャー・芋虫のアーサー。売れっ子スター・ウサギのハリー。そして、新入り・ハリネズミのロバート・・・などなど。見た目からすでにかなり豪快(?)なのだが、それだけに留まらないドロドロの愛憎劇が見もの。華やかな舞台の裏側を、リアルに、グロテスクかつショッキングに描いている。
とにかく、やりたい放題やっている作品なので、「面白さ」とか「完成度」とかを語るのは、何となくお門違いな気がする。オーナーの不倫、ベトナム帰還兵の苦悩、性病に犯されたスターとパパラッチ、夜な夜な行われるAV撮影。およそ”人形劇”という響きとは程遠いテーマを、ここまで濃密に凝縮して描き切ったということ、それ自体が賞賛に値するし、そこに込められたピーター・ジャクソンの思いは相当なものだ。よくもまあ、こんな悪趣味な作品を作ろうと思い、実行に移せたものです。
とにかく色々な意味で”ひどい”作品なので、人は選ぶと思いますが、映画好き、特にカルトが好きなら、見ない手はない。愛情と感動、そして、皮肉と風刺とクソみたいな現実へのアンチテーゼに溢れている傑作。


第522回「鉄男」 (監督:塚本晋也)
塚本晋也監督による初期作品。有志を募って超低予算で作られた自主製作映画です。
ある日、サラリーマンの男が奇妙な女性に襲われる。その日から、彼の体は鉄に浸食され始めるが・・・というのが大筋だが、ストーリーなどあってないようなもの。”物語”というか”お話”を描くことが目的ではなくて、このイメージ、この映像、このほとばしるエネルギー! ・・・をとにかく見ろ!感じろ!といった作品。あえてジャンルを言うなら、ホラーなのだろうか。いや、スチームパンク、インダストリアルロックといった単語の方がしっくりくるような気もするし、プログレッシブホラー、サイケデリックホラーといった造語もいいなぁ、なんて思ったり。
ゴツゴツしてナンセンスな金属怪人・鉄男の描写は何とも言えず味があるし、ストップモーションの多用と、粗削りなSFXは、整った映像表現よりもむしろ作り手の生の思いを伝えるのにふさわしいと感じる。ヘタウマというと少し変なのだが、綺麗じゃないからこそ届く何かがあって―――それは例えば男気とか、ロマンとか名づけられるんだろうけど―――この作品は、そういう”何か”に満ち溢れている。グロテスクな映像とスッキリしない展開、訳の分からないエンディングに反して、「これぞ映画作品だな!」といった感想と共に、スカッと見れる奇妙な青春感(?)がある。
訳が分からないのに、なぜか伝わる物がまっすぐ伝わってくるという意味で、稀有な作品だと思う。途中から描写も展開もどんどん意味不明になっていくのがちょっと欠伸を誘うけど、そこも含めてご愛嬌。映画好きによる、映画好きのための映画。


第523回「バトルシップ」 (監督:ピーター・バーグ)
外宇宙に地球に類似した惑星が発見され、人類はこれと交信を試みた。その結果、宇宙から飛来する五つの物体。兄に叱咤され、ダメダメな人生から這い上がろうと海軍に入隊したアレックスは、環太平洋合同演習の最中、この謎の物体と会敵。突然の襲撃に、反撃を試みるが・・・
「ハンコック」などを監督したことで知られるピーター・バーグによるSFエンターテイメント。開始6分、酒の勢いでコンビニに侵入し、チキン・ブリトーを入手しようとする主人公の姿に唖然。「この映画、アホな映画なんで、肩の力抜いてくれていいよ!」という製作者のメッセージは、親切そのもの。とまぁ・・・事前に銘打たれたSF感と完全に乖離したアホで間抜けなノリの導入部なんですが、意外と後半のドンパチやぶっ飛び展開とマッチしているような気もして、なんだか不思議な感じです。シリアスでもなく、ギャグでもなく、本当に独特な空気感。
演習を中断する謎の敵艦。圧倒的火力と不思議な生態にインパクトがありますが、そんなにドラマがあるわけではなく、ただ淡々とバトルして、爆発して、吹き飛んで、勝って、やったね!・・・みたいな感じなので、本当に肩の力を抜いて見れますし、変にグロかったりエロかったりするシーンもないので、実にお茶の間向きと言えます。とはいえ、お馬鹿なりに押さえるところは押さえていて、クライマックス付近、全てを失った主人公たちの反撃の快進撃には、かなりアツいものがある。この際、細かいことは、どうでもいいのですw
作品としての出来がどうか?と問われれば、あまり良いものではないですが、ノリと勢いはピカイチ。こういう映画も好きです。


第524回「シンプル・プラン」 (監督:サム・ライミ)
「スパイダーマン」や「死霊のはらわた」で知られるサム・ライミによる98年の作品。墜落した飛行機から440万ドルもの大金を発見してしまった男たち三人が、この大金をめぐって疑心暗鬼と無為な争いに巻き込まれていくというストーリー。
北国が舞台。真っ白な銀世界と、その中にポツポツとある家屋が物寂しさを感じさせる情景が印象的。飼料屋に務める主人公ハンクはこれといって満足しているわけでもないが不幸でもない毎日を送り、妻は妊娠を控えている。生活保護を受ける兄ジェイコブとその友人ルーは悩みの種だが、大きな問題があるわけではなかった。そこに突然舞い込む大金。日常持っていた小さな不安や焦燥が、徐々に人々を暴走させていく。
「金が人をダメにする」という非常に典型的なストーリーで、見る見るうちに悪くなっていく状況が面白い。妻から無茶な計画を遂行するよう言われたり、兄を制御しきれなくなったり・・・。だが、不思議とこの男、精神的にはあまり参っていなくて、罪の意識は希薄かつ、自分が助かるためならどんなことでも簡単に手を染めてしまう。この辺りの無感覚さというか、これまで”当たり前の幸せ”を享受してきた人間だからこその考えなさ、残酷さが、この映画の肝だと思う。社会的に認められていない立場で、世間的評価も低い兄のほうが、ずっとまともな感性をしているし、人間らしく思考している。残酷に、裕福に生きることを選ぶか、それとも清貧を選ぶか。考えさせられる展開です。
一番怖いのは、もしかしたら女性かもしれないな、とも思ったり。サム・ライミお得意のドギツい描写はないものの、丁寧にグリグリと人間心理をついてくる演出は良い。興行収入的には悲惨な結果だったみたいだけど、じっくり見て欲しい一本。

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普通に映画レビュー2014年1月~3月

第504回「チャイルド・プレイ 誕生の秘密」 (監督:ドン・マンシーニ)
 犯罪者の魂が乗り移った人形が人々に襲い掛かる「チャイルド・プレイ」シリーズの最新作。実に9年ぶりの最新作ですが、肩すかしの感が強い。
 ほぼコメディ路線だった前作、前々作と打って変わって、今回はホラー路線を一直線。序盤から怪しげな雰囲気でジワジワと盛り上げようとしているのは分かるのだが、これがあまり上手くいっていない。いつシュールな絵で笑わせてくれるのか!と待っている身としては、かなりもどかしい時間が長く続く。
 チャッキーのスラッシャーシーンが始まっても、ありきたりな演出&展開で、ほぼ盛り上がらず。唯一チャッキー誕生秘話が明かされるシーンは、シリーズのファンとしてはちょっとだけ盛り上がったが、その後に、シリーズ恒例である”大逆転からの大勝利”がほぼ描かれないのは非常に残念。チャッキーが苦しむところが見られてなんぼの映画で、それが全くないってどういうこと?
 ”原点回帰”もほぼ製作側の自己満足で、金をかけずにいかに話題性を作るかのほうが主眼なんじゃないかと思えてしまう。かつて「チャイルド・プレイ」シリーズにあったアホらしいことを真剣に、技術の粋を尽くして描こうとする映画人の熱い姿勢は感じられず。よって、コメディ路線復活を熱望。というか、もうこのシリーズは続けない方がいいかもね。

第505回「仮面ライダー×仮面ライダー 鎧武&ウィザード 天下分け目の戦国MOVIE大合戦」 (監督:田崎竜太)
 現在放映中の「仮面ライダー鎧武」と昨年放映していた「仮面ライダーウィザード」によるコラボ作品。平成ライダー同士のコラボが恒例である「MOVIE大戦」シリーズも、ついに5作目。前作は”やりすぎ感”が目立ちましたが、今回からは安定期に入った感覚があります。
 「ウィザード編」:毎回恒例、前作シリーズの補完ストーリー。消えてしまったコヨミを巡って、晴人が自分の絶望に挑む。話としては、一言で言うと、卒がない。懐かしいキャラクターもちょこちょこ出てきて、シリーズを通して見ていた人には嬉しい演出が多い。今までの怪人の技をコピーしてくる敵というのも、(細かいところは置いておいて)なかなかにアツい。ただ、ビーストはもうちょっと何とかうまいこと扱えなかったのかw 確かに活躍はしてるんだけど、もうちょっとボリューム感を持たせてあげて欲しかったなー
 「鎧武編」:本編と全く関係のないパラレルストーリー。かなり見切り発車感のあるむちゃくちゃなシナリオだが、割とハチャメチャな鎧武の雰囲気には合っていると思う。戦国時代ならぬ「戦極時代」に飛ばされた紘汰たちは、武神ライダー同士の戦いに巻き込まれていく。歴代平成ライダーは顔見せこそしますが、あまり活躍はしません。むしろ、各シリーズに出ていた脇役の再登場が非常に嬉しかった。名護さん、健吾に始まり、伊達さん、照井、亜樹子などなど。話自体がぶっ飛んでいるので、こういうサービスが入ると妙に盛り上がる。ウィザードとの共演も良い感じですね。もう少し戦闘にボリュームが欲しかったけれど、とてつもなく足りないとも思わない。
 全編通して、「ちょうどいい」感じ。映画ならではのサービスもあり、見てきたファンには嬉しい演出もあり。これぞコラボ映画。正直平成ライダーvs昭和ライダーにはあまり期待してませんが、この手のコラボはずっと続けて欲しいものです。

第506回「劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-」 (監督:米たにヨシトモ)
 2011年にテレビ放映されたアニメーション「TIGER & BUNNY」の劇場版作品。架空の街シュテルンビルトを舞台に、大人気のヒーロー番組に出演するヒーローたちの活躍を描く。今回の劇場版は、テレビ版1話と2話をリミックスし、さらに3話に至るまでのブランクで起こった新たな事件が題材となっている。中年ヒーローワイルドタイガーと新人バーナビーの出会いを主軸に描く、「ビギニング」の物語。
 テレビ放映版を全話見ているので、かなり懐かしい気持ち。1話2話の内容については卒なくテンポよくまとめられている印象。各キャラの紹介も適度だし、特に不満点はなし。その後の新規エピソードも、”特別編”としては及第点か。欲を言えば、もっと大立ち回りして欲しかった気もするけど、やりすぎると本編との整合性がつかなくなってしまうだろうし、これぐらいが無難かなとも思う。
 ただ、思うに「タイバニ」の面白さはこの後からが本番でしょ。ブルーローズのエピソードや、虎徹とバーナビーの確執・・・からの友情タッグ結成、そして怒涛の後半戦。そのエッセンスはこの映画でも楽しめるけれど、「まだまだこんなもんじゃない」という物足りない感覚のほうが強い。本編を全部見た人のための、おまけ作品ぐらいの位置づけで見るのがちょうどよいかと。
 次回作「The Rising」は、本編終了後の続編エピソードということで、期待している。「The Rising」に向けてのウォーミングアップにはなったかな。

第507回「ロンゲスト・ヤード」 (監督:ロバート・アルドリッチ)
 八百長疑惑によって一線を退き、自堕落な生活を送っていた元アメフト選手ポール・クルー(バート・レイノルズ)は、刑務所に叩き込まれることに。この刑務所の所長は、看守からなるアメフトチームの育成に異常な執念を燃やしていた。クルーは、このチームを勝たせるべく、練習相手として囚人チームの結成を依頼される・・・
 74年製作。当時脂が乗りまくっているバート・レイノルズが主演です。日々看守たちから嫌がらせを受け、うっぷんを溜まらせている囚人たちが、アメフトを期に看守たちに一泡吹かせてやろうと奮起するお話。クルーがチームメンバーを募り、鍛え、そしていかに戦っていくのか。派手さはなく、奇をてらってもいない。堅実で確かな演出が、最後の試合を熱くさせています。純粋にスポーツ映画としての映像的面白さもありますし、何とか試合に勝つべく暗躍する所長の陰謀がらみのエピソードも、終盤の盛り上がりに花を添えている。
 「囚人」と「アメフト」という異色の組み合わせだが、これがよく調和していると感じた。囚人だからこその逆境と、そこを乗り越えようとする熱いエネルギーには親和性がある。また、この映画は、「一度人生を諦めかけ、現実から逃げていた男が、再び立ち上がろうとする物語」と捉えることもできる。スポーツ映画には、こういうことをまっすぐに描ける良さがある。
 アメフトのルールとかよく分からなくても楽しめます。男臭い映画が好きな人におススメ。

第508回「ジャンゴ 繋がれざる者」 (監督:クエンティン・タランティーノ)
 「キル・ビル」などで有名なクエンティン・タランティーノの最新作。往年の西部劇をモチーフに、黒人奴隷を主人公に据えた異色作。歯科医を騙る賞金稼ぎシュルツは、顔の分からぬ賞金首を特定するため、黒人奴隷ジャンゴを買い付ける。シュルツは彼を奴隷としてではなく、”自由人”として扱い、離れ離れになった妻ブルームヒルダ奪還の助けに買って出る。
 いつかやるのではないかなと思っていたけど、やっぱり来ました西部劇。一言で言うと、とにかくタランティーノが好き勝手やっている映画です(いつもそうだけど)。虐げられた寡黙な主人公、逆境からの”復讐”、早撃ちバトル、血みどろの決闘。男子たるもの一度は憧れたロマン溢れるディープな世界観を、とにかくぎっしりみっちり描きまくっている。
 タランティーノの演出センスは、随所で光っている。残酷描写を誇張気味かつスピーディに描く一方、人間の演技はどこまでも地味にリアルに、そして物語のペースもかなりゆっくりめに進めていくのが特徴的。時折挟まれるコミカルなシーンや、独特のBGMチョイスが作品のアクセントとなり、「ああ、タランティーノの映画見てるなー」と思わせる。B級映画で培ったこのセンスは、他の追随を許さない。
 中盤以降、敵の本拠地に乗り込んでからのスローさは、終盤を盛り上げるために必要なプロセスだが、少しやりすぎにも感じる。一方、やはりここでグッと堪えて安易なものを描こうとしない辺りに、映画人としてのこだわりを感じるし、「俺が撮りたいのは売るための映画じゃなく、面白い映画なんだ」という気概さえ垣間見れるのは流石。タランティーノは、まぎれもなく、「映画」を撮っている。
 黒人奴隷問題であるとか、人の尊厳であるとか、そういったメインっぽいテーマはあまり重要じゃない。映画好きによる映画好きのための映画。どこがどうとかこうとか言うのではなく、このディープな世界観に浸って、そっくりそのまま楽しんでほしいですね。

第509回「劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-」 (監督:米たにヨシトモ)
 アニメ「TIGER & BUNNY」の劇場用作品第二弾。今回は、前作と違い完全新規! 架空の街シュテルンビルトを舞台に、企業広告を背負って戦うヒーローたちの姿を描く。位置づけとしてはテレビシリーズの直後。二部リーグで日々中途半端に活躍する虎徹とバーナビーの元に、一部リーグ復帰の話が持ちかけられるところから物語がスタート。しかし、そこにはとある秘密があって・・・
 テレビシリーズの後日談とあって期待度の高い状態で見ましたが、予想以上の良い出来に驚いています。設定の性質上、どんなエピソードが来ても違和感を少なくできるシリーズだとは思うのだけど(=新しい敵さえいれば、無限に話を作れ”そう”)、むしろ完結編としての色合いが濃く、テレビシリーズを補完する形でしっかりそれぞれのキャラクターがドラマしていて感心した。主人公二人組だけでなく、脇役にもそれぞれしっかりとした活躍が用意されており、さらに新キャラも存在感を放って物語の中で異彩を放っている。細かいところを指摘すればいろいろ言えてしまうんだけど、全体のバランス感は非常に良いと思う。
 強いて欠点を挙げるとすれば、テレビシリーズ前提でしか楽しめない作品という点。5分でシリーズおさらい!みたいなことをしてくれる親切さはありがたいのだけど、それだけじゃ作品の魅力は伝えきれないね。キャラクター同士の繋がりや、今までのストーリーがあるからこそ効いてくる演出や展開が多く含まれた一本。だからこそ、これまで追ってきたファンには嬉しい作品に仕上がっていると思う。
 今後の活躍を匂わせつつも、かなり綺麗に終わっているので、これ以上は蛇足かな。サンライズ渾身の一作。テレビシリーズと合わせて全部見たい。

第510回「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」 (監督:アラン・テイラー)
 「マーヴル・シネマティック・ユニバース・シーズン2」、「アイアンマン3」に続く第2作目は「マイティ・ソー」の続編。地球の危機を二度救い、アスガルドに戻ったソー。しかし、とある実験によってジェーン(ナタリー・ポートマン)に危機が訪れたことを知り、再び地球に舞い戻る。ジェーンの体には、かつてアスガルドの戦士たちによって滅ぼされたダーク・エルフが、世界を闇に包むため使おうとしていた禁断の兵器”エーテル”が宿っていた・・・
「アベンジャーズ」の好評を経て、「マイティ・ソー」復活! 正直なところパッとしなかった前作のことを思うと、否応なしに期待しちゃいます。でも、結論から言うと、今回もあまりパッとしない。
 陰影を多用し、少し雰囲気映画的要素の強かった前作に比べ、今回は全体的なコントラストが明るめ。キャラのディティールが分かりやすくなったのは良いのだが、鎧などの小道具の作りがくっきり見えているため、チープさが目立つ。CGは頑張っているのだけれど、実写パートと不釣り合いで、特にアスガルドのシーンは違和感があった。
 話としてはまあまあという感じなのだけど、もっとロキには活躍して欲しかった感覚があるし・・・といってもまあ、彼は今後もずっと何らかの形で関わってきそうなのだけど、もっとカタルシスというか、ちゃんとしたドラマが見たかった印象が強い。アクションはまあまあ良いんだけど、キャラクターが全然描けていませんね。
 悪くはないけど、良くもない。シリーズ見てきてる人ならそこそこ楽しめるけど、単体映画としては印象薄いです。

第511回「キック・アス ジャスティス・フォーエバー」 (監督:ジェフ・ワドロウ)
 2010年公開のアメコミ原作映画「キック・アス」の続編。なりきりヒーロー「キック・アス」に扮していたデイヴだが、世間のヒーローブームとは裏腹に一線を退いていた。しかし、退屈な日常に決別するため、本物のヒーローになることを決意する。ミンディ・マクレディ=ヒットガール(クロエ・グレース・モレッツ)に弟子入りした彼は、授業を抜け出し訓練を始める。一方で、キック・アスを憎悪するクリスはレッド・ミスト改めマザー・ファッカーを名乗り、悪の軍団を結成しようと暗躍する・・・
 ノーマークから大ヒットを記録した前作から4年。待望の続編ですが、実はそんなに期待していませんでした。前作が割と綺麗に終わった印象があったので、蛇足感があるんじゃないかと。そんな疑念を払拭してくれる大傑作です。
 成長したミンディは高校生に。普通の女の子とヒーローとしての自分にせめぎあい、引退を決意。一方正義感に燃えるデイヴは新しいヒーロー仲間と結束してヒーロー軍団「ジャスティス・フォーエバー」を結成するが、クリスの悪意は想像をはるか上回っていた。・・・ヒーローに憧れる少年という等身大の青春物語と、暴力と悪意に満ちたバイオレンスなドラマが見事に絡み合っている。お馬鹿なシーンではとことん笑えるし、一方で物語の展開は重たい。残酷シーンや人死にが連続し、全く気が抜けない。
 様々な登場人物の思惑が重なり合って、最後はヒーロー軍団とヴィラン軍団の大衝突に。この辺りの描写がちょっと生ぬるく、もう一悶着あってもよかったかなと思うけれど、これ以上あるとそれはそれで脂っこい気もする。続編を匂わせつつも綺麗にまとまっていて、秀逸なラストだったと思う。
 新たに登場するヒーロー、ヴィランたちがことごとくナイスセンスで笑える。行方不明の息子を探す両親「リメンバー・トミー」とか、「チンギス・半殺し」とか「マザー・ロシア」とか。名前だけで笑えます。チラッと登場するニコラス・ケイジのポートレートも笑いの対象w
 心躍る興奮と、胸を突き刺すようなカタルシスの交錯。良い作品です。

第512回「映画 プリキュアオールスターズ New Stage3 永遠のともだち」 (監督:小川孝治)
 「プリキュア」シリーズ10周年記念作品にして、一昨年から連続している「オールスターズNew Stage」シリーズの完結編。初代プリキュアから最新のハピネスチャージプリキュアに至るまでの全プcリキュアに加え、劇場版限定だったキュアエコーとエンエン、グレルも登場。文字通りの「オールスターズ」、決定版。
 夢の世界に閉じ込められてしまった子供たちを救うため、夢の世界に飛び込むプリキュアたち。妖精学校からの依頼を受け、ハピネスチャージプリキュアの調査を進めていたエンエンとグレルは、この騒動に巻き込まれることになる。そして、夢の世界で出会ったのは、エンエンとグレルのかつての友人ユメタだった・・・
 プリキュアの数が大幅に増えたことで、ボイス有プリキュアの数が減る傾向にあったNew Stageシリーズだが、今回は歴代主人公が全員復帰、かつ一部プリキュアにも声があり、オールスター感がグッと増している。残念ながら声のないプリキュアもいるが、そんなに気にならない。また、歴代同士のコラボレーションや、過去作へのオマージュも多分にあり、今までのシリーズの積み上がりも感じさせる。特に5勢とスマイル勢のコンビプレイや、ローズの地面割なんかは感動した。バンクつき必殺技が多用されていたり、お馴染みのマーブルスクリューの新規作画があったり、昔からのファンには嬉しい演出が多いです。
 母と子の愛や友情に焦点があたったストーリーも良い。こういうのにめっぽう弱いです、私。ただ、例年に比べると戦闘に割く時間が多いために話の積み上がりが薄く、ややカタルシス少な目に感じた。話の規模としても全宇宙が敵だったDXに比べるとこじんまりとしているので、好みが分かれるかもしれません。
 ともあれ、シリーズ集大成。ここまで来ると、感慨深いものがありますね。来年からはどうなるんだろう? 形を変えても、作品関コラボはずっとし続けて欲しいな。もう無理だろうけど「5vsスマイル」とかも見てみたい。次は、映画ハピネスチャージですね。早くも半年後が楽しみ。

第513回「ホビット 竜に奪われた王国」 (監督:ピーター・ジャクソン)
 ピーター・ジャクソンが手掛ける「ホビット」シリーズ三部作の第二弾。オークの首領アゾグの手を逃れたビルボ・バギンズ一行は、熊人ビヨルンの助けを借りて闇の森を進むが、巨大蜘蛛の襲撃に合う。命からがら逃げ延びた彼らの前に現れたのは、エルフの戦士たちだった。
 圧倒的映像美と広大な世界観は健在。今回も楽しめました。ただし、短い原作をいかに三部作に仕上げるのかというところで、良い点悪い点の両方が挙げられそう。
 良かったのは、レゴラスなどの原作に登場しないキャラの登場。エルフが物語に関わってくることで物語に厚みが増し、また映像のバリエーションが増え、より戦闘がスタイリッシュに、迫力あるものに仕上がっている。特に川を下りながらエルフ、オーク、ドワーフの三つ巴で戦うところが最高。このシーンのためだけにこの映画を見ても良いと思ったくらい。弓矢での戦いをここまでカッコよく描いた映画もまあないでしょう。
 悪い点は、物語が間延びしてしまっているところ。今回で悪竜スマウグの元にまで辿り着いてしまうが、物語は決着を見ず、次回に持ち越しになる。2時間40分も上映時間がありながら、様々な伏線が回収されぬまま終わってしまうので、この作品一本で”物語として”評価をするのはかなり難しい。次回の落としどころ次第だが、もうちょっとコンパクトにまとめて爽快感を感じさせるシーンがあっても良かったと思う。(せめてどこかの局面の戦いは決着させる、とか。「ビルボ・トーリンサイド」「レゴラスサイド」「ガンダルフサイド」「タウリエルサイド」、このうちどれかぐらいバシッと終わって欲しかった。
 忘れそうなので、ここに気になっていることを羅列します。(!?

 ・バインが隠した「黒の矢」はどうなる?(スマウグ撃破の切り札?
 ・ビルボはアーケン石を手に入れたのか? トーリンとの関係性はどうなる?
 ・キーリとタウリエルの恋仲は叶うか? レゴラスはどう関わるか?
 ・ボルグvsレゴラスの行方
 ・アゾグとトーリンは再戦なるか?
 ・ガンダルフはどう返り咲く?
 ・サウロンの復活はどう阻止されるのか? LotRへの繋がりは?
 ・失われたつらぬき丸はどうビルボの手元に返るのか?

 うーむ、ともあれ次回が楽しみでならない。公開は12月らしい。遠い! ブルーレイは買う予定。前作と合わせて復習しながら待ちましょう。

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自作小説デイドリーム・ビリーバー 14話

 県立海月坂高校。
 最寄駅は藤戸、歩いて約15分。長年続いていた改修工事がやっとのことで終わり、装い新たに新校舎での授業が始まったのがついこの間。その目新しさに入学受験者の数が微増したらしいけれど、県内での人気は相変わらず”そこそこ”の領域を出ず、パッとしない位置づけをキープし続けている、いわゆる”ごくフツーで平凡な、どこにでもある高等学校”。入学者のほとんどの志望動機は、「家が近かったから」。私だって、当然そうだ・・・けれど、不思議と昔から、変な人ばかりが集まってくる高校なんです。
 そんな高校における、ごくフツーの短い冬休みが終わり、三学期が始まったその日、クラスで席替えがありました。私の新しい席は、なんと! 最後列、窓際から隔たること一席。まさに、夢にまで見た絶好のポジションです。教室後方のロッカーにはいつでも手が届くから、休み時間に次の授業の準備にあくせくしなくていいし、かつ窓からは視界一面に広がる海を見渡すことができます。天気の良い日なら、水平線がくっきりと、空と海を隔てているのが分かります。授業という名の現実から逃げ、自分の世界に逃げ込むことにあまりに適したその座席・・・ですが、実はここには、一つだけ大きな大きな”問題”がありました。
 ふと窓を見やると、どうしても”彼”が目につくのです。教室最後方、もっとも窓に近い列に座る彼。片肘を着き、大きな絆創膏を貼った頬を手のひらで支えるようにしながら、ぼんやりと海を見つめている。櫛なんて生まれて一度も入れたことがなさそうな髪の毛の奥に隠れた目は、どこか虚ろで、でもどこか輝いてもいる。名前は・・・離臨(はなれ・のぞみ)。
 「男の子なのに、臨? 変わってますね。臨君って呼んでいいですか?」
 初めて会った日、私が何の気なしにそう言うと、彼は眉間に皺を寄せて言いました。
 「・・・女みたいな名前で悪かったな。好きでこうなってんじゃない」
 「でしょうね、呼び名って、他の誰かが決めるものですから。では、どう呼べばいいですか?」
 彼はちょっとだけ逡巡して、海を見ながら答えました。
 「・・・めんどくさい、好きに呼べよ」
 「分かりました、臨君。臨君と呼びます」
 「ほ、本当に呼ぶんじゃねーよ!」
 「えっ、でも好きに呼べよって言ったじゃないですか」
 「うるせえ! ・・・とにかく、なれなれしくすんな、バーカ!」
 びっくりするぐらい素直じゃなくて、びっくりするぐらい口が悪い。とにかく、とにかく、変わっている。休み時間に誰かと話している姿を見たことはないし、授業中も先生の話を聞いているんだか、いないんだか。当てられたら一応正しく答えるんですけど、ノートを書いている姿は見たことがないし。ただ海をぼーっと眺めているかと思えば、突然席を立って、「先生、すまん、急用だ!」とか言ってどこかに消えてしまうこともある、というか、”よくある”。
 制服の袖から覗く腕には生傷が絶えず、常にちょっとしんどそうにしている。溜め息がちで、気だるそうで、挙句の果てには・・・
 「離の奴、また進路指導室に呼ばれたらしいぜ」
 「いろいろやらかしてっからなぁ」
 「この間の放火事件、現場のそばにいたとか」
 「マジかよ。危ねー奴だよな、つくづく」
 「放っておけよ。関わったら負けだぜ、マジに。俺たちとは人種が違う、根本からな」
 ・・・生徒からの評判は、最悪。
 クラスには必ず、成績が芳しくなかったり、あるいは素行のヨロシクない”不良少年”が必ずいます。しかし、彼らは本当は悪くないのです。家庭環境であったり、社会であったり、あるいは・・・えーとまあ、その他諸々の何かが作用して、仕方がなく、心のどこかが歪んでしまった、可哀相な人々なんです。そしてそれを、実はお互い理解している。だからこそ、互いに互いの傷をなめあうべく、彼らは必ず群れをなし、徒党を組むもの。・・・しかし、離臨少年は、そういった範疇にさえ収まらない。
 ”孤高”。
 その言葉が何よりも似あう。誰が何と言おうと、世間がどうあろうと、ひたすらに自分で在り続ける存在。彼が自分のスタイルを崩すのを、私は見たことがありません。話しかけられれば誰であろうと突っぱね、腹が減れば問答無用でおにぎり(たぶん自分で作っている)にかぶりつき、眠ければテスト中でも寝る! 傍若無人、厚顔無恥・・・でも、なぜなんでしょうか。どこか憎み切れないところがある、放っておけないところがある。
 私にとっての臨君は、そういった意味で、どうにもこうにも”気になってしまう存在”。
 だから・・・”問題”なんです。私にとって。いえ、私の青春にとって。

 
 
 「春の日はまだ遠く」
 
 

 あれは、そう・・・忘れもしません、寒い寒い冬の日のことでした。
 連休明けの火曜日、私の隣の席は、ぽっかりと空いていました。
 「離、離は休みか」
 担任のコバセン(古林千里(ふるばやし・せんり)先生)の声が、いつに増して素っ頓狂だったのには、理由があります。かつて教育学部に進学しながらも、在学中の不真面目が祟って教員免許の取得ができず、転学部をして経済学部生として卒業後、一般企業に就職したはいいものの、就職後二年で「教師になりたい」という夢が再燃し、大学に復帰、その後アルバイトで学費を稼ぎつつ留年しつつの二度目の大学生活を謳歌して、やっと母校海月坂に戻って教師生活を始めたのが五年前、いまだ結婚歴なし(予定もなし)・・・というグダグダな人生とは別に、「臨君の欠席」という意外な事実が、そうさせたのです。
 「我が道を行く」を本気で貫いている彼ですが、朝礼に遅れたことはかつて一度もありませんでした。即ち、彼は数少ない無遅刻無欠席の称号ホルダーであり、手のかかる問題児というステータスを差し置いても、彼の不在は意外以外の何物でもなかったのです。
 「おかしいな、特に連絡は来てないんだがな。誰か知らんかー?」
 私は、黙って彼の机を眺めていました。ぼんやりと、彼の姿を想像します。誰とも折り合わず、自由気ままに生きる少年。でも、どこか不器用で、何となく放っておけない。彼は今何を思い、何を考えるのか―――
 彼について、あるいは彼の不在について、事情を知っている人は誰もいませんでした。そりゃそうです。日常的に彼と話す生徒なんて一人もいませんし、であれば彼の考えていることだって、身の回りに起こっていることだって、知られようがないんです。私だって、彼がどこに住んでいるのかさえ全く知りませんでした。その時は、この話題についてはもうそれっきりで、誰も臨君のことなんて、ほとんど思い出すこともなく、一日がゆっくりと、いつも通りに過ぎていきました。
 放課後、コバセンから呼び出しを食らいました。
 思い当たる節は、正直いろいろありましたね。成績や素行の面では一般女子生徒ぶってはいますけど、最近ガブさんとも結構やらかしているし、「ああついにバレたのか」と。年明け前の食い逃げの件での事情聴取の線もあるかな・・・なんて想像しつつ、「失礼しまーす」なんて、ガラにもなく大声で職員室に入りました。
 「おお、柚木。よく来てくれた」
 「食い逃げの件でしょうか」
 「食い逃げ? なんだそれ。まあいい、はい、これ」
 すぐさま手渡されたのは、見覚えのある小冊子でした。今朝、私の手元に来たものと全く同じ。「爆熱(笑)! 真冬の三連休大特訓スペシャル課題・回答一覧」と題されたそれを、私はそっとコバセンの机に戻そうとしました。
 「おーいおいおい、何やってんだおい」
 「こんなもの一つで十分ですよ」
 「いやいや、分かってるよ、そんなさあ。てか、”こんなもの”って・・・。まあいいや、それよりお前にはさ、これを届けて欲しいんだよ」
 うわ、これはややこしいことに巻き込まれた。その”実感”がありました。そう、コバセンはいつもこうなんです。口を開くと面倒ごとばかり、教える内容は間違いばかり。こんなだからモテないんです、と言いたいところなんだけど、この時ばかりはちょっと違いました。「離―――」、コバセンはそう呟いたんです。
 「今日、来てなかったろ。あの後、家の人から連絡があってな。どうやら、しばらく学校に来れないらしいんだわ」
 「えっ、しばらくって―――」
 「詳しいところは俺にも分からんのだがな。まあともかく、そういったところの事情の調査も含めて、お前に頼みたいんだ。あいつの家、近いだろ。これ、届けてやってくれよ」
 この時、私の中では、もうコバセンがどうとかってことは、どうでもよくなっていました。冴えない中年教師の言葉には、私の興味を彼の意図するところとは別のとある方向に引きつけまくる”引力”があったのです。
 気づくと、私は「爆熱(笑)! 真冬の三連休大特訓スペシャル課題・回答一覧」を片手に、寒空の下一人ぽつぽつと歩き始めていました。進む方向としては、ほぼいつもと変わりません。ですが、私の足取りには、確実に、どこかいつもと違う調子がありましたし、見える景色も、どこか違っているような気がしました。どこがどう、というのは言えないのですが。
 そして・・・
 学校を出て、約10分。見慣れた住宅街を離れて、私は山道に差し掛かろうとしていました。コバセンから教えてもらったルートは間違っていないはずですが、あの教師のことなので、いまいち信用しきれません。・・・とはいえ、だからといって彼の住所を調べる他の手段があるはずもなく、私はひたすらトボトボ山道と、そこに連なる石の階段を登っていきました。
 ―――この時、もう薄々気づいてはいたんです。まさかと思いつつ、でも確実にそうとしか考えられない。コバセンの言うとおり、ここは私の家に近いし、行きやすいし、実際来たこともある。石段を登り切って改めて見ると、子供の頃よりは小さく見えた。けれど―――神社の境内は、”家”の敷地と言うには広すぎたし、ここに人が住んでいるイメージなんて、私には全然持てなかった。
 即ち、離臨少年は、いわゆる神社の息子だったのです。この時まで、私は全然知らなかった。でも、言われてみると何となく分かる気がするし、「ああそうだったんだな」と自然と納得している自分がいて、驚きました。ガサツで排他的で粗野で乱暴で・・・一般的な、神職のイメージとはかけ離れている彼ですが、「反動なんだろうな」とは想像できてしまうわけです。
 さて、かくして私は神社にまで辿り着いたのですが、問題はここからでした。社務所のようなところを見ても誰もおらず、もちろん本殿にも人気はなく、仕方なく、意味もなく賽銭を投げいれてみたり、「ゲノギアスの設定資料集が重版されますように」とか祈ってみたり、あるいは自由に料金を払うタイプのおみくじを引いてみたりした。結果は「末吉」。・・・これって良いんだっけ、悪いんだっけ? よく分かりません。
 うろうろしていると、社の裏手に共同墓地を発見しました。神社にお墓なんて、珍しいですよね。墓石の間隔とか、形とか、あるいは書いてある文字なんかも、かなり独特な感じがしました。何と言っていいのか分からないのですが、とにかく普通でないというか、きっとここには葬られているというより、”祀られている”という印象・・・でしょうか。そんな感覚です。あまり立ち入りすぎるのもどうかと思って、遠巻きに見るに留めた私ですが―――そんな時でした。
 近くの茂みでガササッと音がしたので、私はハッとして立ち止まりました。砂利を足の裏で蹴とばしながら、くるりと回って辺りを確認します。風が吹き、マフラーが揺れ、眼鏡のツルがキィと音を立てる。私は、目を疑いました。
 茂みの中に、確かに”それ”はいました。犬、猫、違います。テレビや雑誌・・・いや、雑誌じゃなくて、百科事典? とにかく、画像でしか見たことのない生き物でした。円らな瞳でこちらを見つめ、鼻をヒクつかせている。片目の下に傷があり、そこからスッと落ちる一筋の血が、まるで涙のように見えた。
 ―――ライオン。間違いありませんでした。
 何を言っているのか、って? 確かに変ですよね。文脈上というか、流れ的にというか、そんな風にはならないはずだと私も思っているんですが・・・でも事実は、事実です。片田舎の平和極まりない住宅街を、少し離れた山の中、いるのは少女と、ライオン。
 どうしていいのか分からず、私は立ち尽くして、ただ茫然とその姿を見つめていました。山奥、仮にも文明国家の一領域で起こるとは思い難いこの状況。・・・こういう時って、死んだフリ? それはクマだっけ。や、クマに有効なことって、ライオンにも有効なんだろうか? ライオンってネコ科? クマはげっ歯類? そもそも「科」とか「類」って何? いや、それはどうでもよくて・・・
 とにかく私は、通学カバンを地面に置きました。私なりの、無抵抗の証明というか、意思表示のつもりだったんです。そして意味もなく両手を挙げ、目を逸らさぬようにしてそーっと後ずさる。ライオンの足は、時速何キロだろう。多分ダッシュしても追い付かれるだろうな。というか、私は食われるんだろうか? 警察呼ぶ? 呼んでどうする? とにもかくにも、今は―――
 「おい、何やってんだ」
 「わあああっ!!」
 振り返りざま、勢い余って尻餅をついた私に、降ってきたのは溜め息でした。最近至近距離で聞いたことのある音声に言いようのない安堵感を覚えつつ、同時に破裂しかけていたパニックの風船が破裂する。「そ! そこっ! そこっ! ライオン! ライオンがっ!」と、もはや何を言ったのか、全然覚えていない。
 「なっ・・・ 大丈夫か? お前」
 反射的に顔をしかめながらも、彼はあくまで冷静に遠くの茂みを窺い、その表情をまるで崩そうとしませんでした。そこで私は勘付いて、尻餅をついたまま方向転換。茂みのほうに向きなおって、よーく目を凝らします。
 「あ、あれ・・・おっ・・・かしいですね」
 全身が、弛緩するのが分かる。そこにはもう、何もいませんでした。日本中探せばいくらでも見つかるような平凡な茂みがただあるだけで、獣の気配も、血の匂いも、忽然と姿を消しています。
 私が見たのは、幻覚だったのでしょうか。それとも―――えっと、分かりません。とにかく、その時は何も考えられませんでした。確かなのは一つ。脅威は去ったのです。とにも、かくにも。
 「おい、大丈夫か?」
 再び投げかけられて、私はまた困惑しました。「えっ・・・! ああ、はい、うん。あ、大丈夫ですよ、私は」なんて、全然大丈夫じゃない台詞です。ちなみに、目の前にいるのが、臨君だとちゃんと認識したのは、この時が初めてでした。ただ、何かをちゃんと言えるような状態では、全くなかったです。
 「お前さ、柚木だよな?」
 「あ、はい。そういう君は、臨君ですね」
 「だからそう呼ぶなって。うちで何やってんだよ。何もねーから、早く帰れ」
 相変わらずの愛想の悪さ・・・。人が誰のためにこんな山奥まで来るんだか。それに、学校を休んだにしては元気すぎる言い方が気になります。ただ、それよりもっと気になったのは、
 「あれ!? 腕どうしたんですか?」
 「人の言うこと聞けよ・・・」
 「腕、折ったんですか?」
 右上腕を覆うギプスを苦笑気味に眺めつつ、臨君は「まあな」とはにかんだ。学校を休んだ原因はこれか。これかと言いつつ、これか?と思っている自分もいるんですけど。ほぼ無意識に、「擦り傷切り傷だけでは飽き足らず、ついに折ってしまったわけですね」と言ってしまっていました。
 「何だよ、その言い方」
 「いえいえ。まあ心配してる、とかではないんですけどね。ただ不思議ってだけで。なんでそんなことになるのか」 我ながら、失礼な物言いです。
 「お前に言われたかねーよ。人の家の敷地で勝手に暴れて・・・ その足」
 顎でクイッと示された先に反射的に目をやり、私は「あっ」と漏らしました。さっき転げた時でしょうか。当たり所が悪かったようです。足首の擦り傷から、ジワッと血が滲んでいます。そんなに大した怪我ではないので、放っておいても大丈夫そう―――と思った矢先。
 ハンカチを片手に、彼はひざまずく形でした。私の足をサッと一拭き。仮にも女子高生様のおみ足を触るのだという何となくの気遣い、何となくの思いやり。ブスッとした表情からは微塵も感じないけれど、彼の何かからは、そんなものが感じられました。
 「まあ大したことはなさそうだけど、一応ガーゼぐらい当てといた方がいいだろうな」
 「は、はあ」 さすが生傷の絶えない男。応急処置には詳しい・・・というか、自分にはそんなちゃんと処置しないくせに。
 「何だよ」
 「いえいえ、臨君って、意外と親切なんだなと思って」
 と、そう言い始めた時には、もう臨君は私に背を向けて歩き始めていました。そして、三歩ぐらいのところで、振り返ります。「何やってんだ?」「えっ?」、素っ頓狂な会話。
 「俺ん家(ち)はこっちなんだよ」
 な、なるほど。どうやら、そういうことみたいです。動かした足は、少しチクッとしましたが、そこまで痛くはありませんでした。カバンを手に取り、むしろ私は、駆け足になる。
 今だからはっきり言いますけど、「爆熱(笑)! 真冬の三連休大特訓スペシャル課題・回答一覧」のことは、すっかり忘れてしまっていました。
 
***
 
 離家は、神社の本殿からは少し遠ざかる形、山道をもう少し進んだところにありました。木と木の間に隠れるようにしてひっそりと伸びる石畳の道の向こう側に、伝統的な日本家屋が顔を覗かせています。
 「へー、こんなところに家があったんですね」
 「お生憎様」
 相変わらず悪態をつきながら、臨君は私の数歩先をズンズンと進んでいく。玄関の辺りの閑散とした様子とあいまって、どこか寂しげな雰囲気でした。そこら中見たこともない雑草が伸びっ放しになり、空っぽになった植木鉢がいくつも放置されている。犬小屋の残骸のようなものに掛けられたネームプレートの文字は、かすれて読めなかった。
 「犬、飼ってるんですか?」
 「昔な」
 引き戸を勢いよく開けて、無言のまま家に入っていく彼。私はすぐ後について、「お邪魔しまーす」と小声を漏らした。
 家の中から、返事はありませんでした。照明の落とされた廊下はしんと静まり返り、靴下が床板を鳴らす鈍く低い音以外、何も聞こえません。廊下を曲がってすぐのところに広くもなく狭くもない台所があって、私はその入り口で立ち尽くしました。
 「座れよ」
 「あ、はい」
 臨君は、台所の奥、おそらく居間があるだろうスペースに引っ込んでいきました。木製の箪笥を引く音や、小物をカチャカチャとイジる音をBGMに、私は台所の中を見渡します。すりガラスつきの食器棚や、油汚れでテカテカになったコンロ。壁際に立てかけられたアルミホイルは程よく黒ずみ、流しには使用済みの食器が溜まっている。そして、サイドテーブルの上には古めかしい黒電話と、どこかで見たことのあるような、ちょっと気持ちの悪い彫像が飾ってあった。
 不思議な気分です。当たり前のことなんですが、臨君は臨君で、ちゃんと生活しているのだなと、この時初めて意識したんです。しかも、過度に現代化されていない少し古めかしい物の中で、ごく普通に、当然のように。
 「持ってきた。これ、使えよ」
 居間から戻り、机の上に消毒液とガーゼ、それから絆創膏の入った小さなケースを置いた彼は、「ありがとうございます」と言った私にチラッとだけ目くばせした後、冷蔵庫に向かっていった。「プリン食うか?」 突然の提案に、私は「へっ?」と素っ頓狂な声を上げる。
 「プリン。要らないならいいけど」
 「あ、今はいいです」
 「そうか。・・・あ、手当は自分でやれよ。俺、こんなだからさ」
 左手でつまんだプリンで腕のギプスを叩きながら、スプーンを探す。お目当ての物は、流しのそばに立っている筒の中にあった。臨君は少し横着をして、わざわざ手をグーンと伸ばして指先でそれを摘(つま)み取った。制服の隙間からは、相変わらず生傷が顔を出す。私は目の前のケースには手を出さず、「臨君って、不思議な人ですね」と、率直な感想を述べた。
 「・・・いきなり何だよ」
 「私の知り合いに、すごく変な人がいるんです。すごく変っていうか・・・ まあただのプータローなんですけど。今流行の無気力系、的な。その人にちょっとだけ似てて、でも全然違ってて」
 「・・・ふーん」
 「プリン、好きなんですか?」
 口と片手で器用にセロハンをめくり、スプーンを突き立てようとしたところにその言葉。「好きじゃいけねーのかよ」とは、彼らしい言葉だ。
 「いいじゃないですか。私も好きです」
 「食べたいならそう言えよ」
 「いえいえ、今はいいですって」
 その時臨君は、少し呆れたような顔になった。私、変なことを言っただろうか? あまり自覚はできていません。ただ、ちょっと盲目にはなっていたと思います。「臨君―――」と、いつもの癖で、思ったことがそのまま口をついて出ました。
 「腕、どうしたんですか?」
 スプーンを止めて、臨君は黙り込んだ。ズルいことを言ったかな、思い返すとそんな気がする。私は、実は知っていたんです。彼の性格、彼の性質(たち)。今まで何度か、聞いたことがありました。「その傷、どうしたの?」「さっきは何をしてたの?」「先生心配してたよ。何があったの?」・・・こういう質問に、彼が答えたことは一度もありませんでした。
 それは、なぜなのか。初めは分かりませんでした。言いたくない、隠したい。そんな気持ちもあったのかもしれませんが、私は心理学者じゃありませんし、占い師でもありませんし、超能力者でもありませんので、真実はいつも闇の中です。ただ、それでも分かるんです。分かってしまうと、言うべきでしょうか。
 臨君は、”言えない”んです。いわゆるところの、”ウソ”という奴を。
 「・・・気になるのかよ」
 「ちょっとだけ」
 「ちょっとかよ・・・」
 「ちょっとです。だって、学校にも来れないなんて。あの席に人がいないと、海が見渡せちゃって授業に集中できないですし、コバセンには変な用事頼まれるし。あっ、これ渡しておきます。三連休の宿題の答え。ちゃんとやりましたか?」
 思い出したように(というか実際この時やっと思い出したのだけど)、私は例の「爆熱(以下略)」を机の上に投げ出し、彼の答えを待ちました。素行不良かつ早退多し、授業態度も最悪―――けれど、私はこのことも知っていました。彼は意外と、”真面目”なんです。
 「・・・やったが、それが何だ」
 「やっぱり」
 「やっぱりって何だ」
 「そうだと思ったんです。でも、だからこそ、そんな臨君が学校を休むなんて。私気になって、たぶん今日は8時間ぐらいしか眠れないと思います」
 そこで臨君は、また黙りました。こういった時、「8時間も寝りゃ充分じゃねーか!」とか突っ込んでもらえる日常に慣れてしまっていた私には、ちょっと物足りない感じです。が、無理もありません。彼は、”答えられない”んです。「自分がウソをつくこと」と、そして「事実を言ってしまうこと」の両方が、彼にとって「許されないこと」だからです。・・・理由? それは、私にも分かりません。でも、前からずっと、こうなんです。
 「コバセンも心配してましたよ」
 「ウソだな」
 「本当ですよ」・・・と言いつつ、葛藤。してない顔ですよね、アレは。
 「俺が学校を休んだから何なんだ? つーか、腕くらい折れるだろ・・・お前だって、足怪我してんだろ」
 「それとこれとは話が違うくないですか」
 「いや・・・そうだ、けど・・・」
 すっかりプリンを食べるのも忘れて、臨君は眉間に皺を寄せながら、頭をかきかきしていた。至極単純に「困った・・・」という様子が伝わってきて、私はちょっと悪いことしたかなと、反省する。ただ、時間も時間なので、臨君に用意してもらった救急セットを使って、私は足の応急処置を始めました。
 行為には、ものの一分もかかりません。いつの間にか頭を抱えてそっぽ向いた彼に向かって、「ありがとうございました」と言いながら、時計に目くばせする。「話の続きは、また明日、学校でしましょう。待ってますから」。すると彼は、途端に狼狽を露わにして、目を背けながら、
 「明日・・・明日な。・・・まだ難しいと思うが」
 ああ、そうでしたっけ。そういえば、コバセンもそんなことを言っていた気がします。しかし、私はあまり気にしていませんでした。”ただ腕が折れただけ”のはずがないことは分かっていましたし、そこを無理やりに詮索しようとするほど、私も無粋ではありません。ただ、私はあっけらかんとして、こう言うだけです。
 「じゃあ、また来ます。来ますとも、ただし5時までですが」
 「はあ? なんだそれ」
 「再放送ですよ、再放送。最近やってるんです、『妖々白書』。知りません? 今主人公の妖輔が髑髏(次男)と死闘を繰り広げる良い感じの展開なんで。毎日見逃せないんです。あ、もうそろそろ急がないと。今日はありがとうございました」・・・とか何とか言いながら、私は立ち去る準備を着々と始めていました。台所を背にし、そそくさと玄関に向かう。履きなれて靴べら要らずのシューズに滑り込むと、そのまま振り向きざまに「じゃっ!」と挨拶を送る。
 「一人で大丈夫か? 気をつけろよ」
 「大丈夫です。臨君こそまた怪我しないで下さいね。あっ、そうだ」
 その時、本当に唐突なのですが、玄関のカレンダーを見て私は気づいたのでした。明日、明後日は例のあの日―――「臨君」と声色を変えると、「何だよ」と明らか不審げに眉をひそめられました。でも、多分、気づいてはいるんです。そういうポーズを取ることが、彼なりのちっぽけなプライドを守るためには必要なのでしょう。私はニヤニヤと、小汚い笑みを浮かべました。
 「何だよではありません。明後日は2月14日ですよ! この町にずっと住んでいて、知らないとは言わせませんからね。ま、ここちょっと町から離れてますし、”出ない”のかもしれませんけどね」
 「出る・・・? 待て、まさか―――」
 「皆まで言うな皆まで言うな。あ、でも言っておきますけど、私あげませんからね。欲しかったら学校に来てください。『ブラックパルサー』ぐらいなら持ち合わせあるかもしれませんし」
 臨君は、眉をひそめたまま、何だか不服そうに黙っていた。何でしょう、その様子は・・・かなり、不思議でした。思っていることがあるのに言えない、というか・・・言おうかどうか、迷っているというか。
 しかし、結局その違和感を解明せぬまま、私は玄関を出てしまいます。「では、お邪魔しました」。軽く手を振ると、臨君も合わせてスッと手をかざします。その影が消えて、背を向けて、私は夕闇迫る山道を、少し駆け足で駆け下りていきました。
 木々は揺れ、静かに風がそよぐ。葉っぱがこすれるざわめきと、カラスが遠くで鳴く声が聞こえます。山の下には暗い闇、私の背からも夜が迫ってきています。私はマフラーをもう一度しっかりと締めなおして、ちょっとだけ痛む足を止めて・・・ゆっくりと、振り返りました。
 「―――どうしたんですか?」
 今だからはっきり言いますけど、実は、私には別に、”特別な感情”はないんです。ただちょっと少し、人よりも好奇心が旺盛で、無鉄砲で、思わせぶりってなだけで。それが私の青春。ちょっと自分勝手で、気ままな日常。
 だから別にこの時も、少し笑顔にはなったけれど、大して意味はないんです。断じて、そのつもりです。私は、ですけど。
 「送ってくよ。近くまでな」
 「おだてても、何も出ませんよ?」
 「・・・うるせぇ、そんなんじゃねーよ。行くぞ、ほら!」
 びっくりするぐらい素直じゃなくて、びっくりするぐらい口が悪い。とにかく、とにかく・・・まあ、そんな人です。私はもう、あえて何も聞きませんでした。私には、分かっていましたから。彼が事実を言いたがらないこと、そしてウソをつきたがらないことも。
 世の中不思議なことばかりだなぁ。沈みゆく夕陽を二人眺めながら、私はしみじみとそう思いました。
 
 
***
 
 
 キンコーン。
 めったに鳴らないチャイムの音に、俺が奇声を上げたのが午後6時過ぎのこと。帰宅直後、万年床でうたたねを始めていた俺を叩き起こした騒音の主は、乱暴に玄関扉を三度叩いた。
 「分かったよ、今行く」
 脂ぎった髪の毛を右手ですきながら、靴も履かずに扉を開ける。待っていたのは、ジャージ姿の見知った女だった。寒そうに腕を組み、般若のような目つきで俺を見つめている。「何?」と問う前に、彼女は口火を切った。
 「あんさ、醤油貸してくんない? 急ぐんだ」
 「醤油? まあ・・・いいけど」
 「助かる、頼むよ」
 色々と思うところがありながらも、台所までひっこみ、ボトルごと持っていく。廊下でそわそわしながら待つ彼女は、扉からはみ出る俺の姿を見るや否や、「サンキュ」と彼女らしい淡白な礼を述べた。
 彼女が俺の隣室に住むようになって、ちょうど一年くらいか。ダイコンやカンカンのアホが騒ぎ立てたせいで、散々根も葉もない噂が流れたりもしたけど、年が近いということもあって、基本は仲良くやっている。こうして物を貸しあったりすることも珍しくなく、今ではすっかり気心の知れた友人という感じだ。ただ、女心と秋の空は何とやらという奴で、なかなか何を考えているのか分からなかったりする。めちゃくちゃ親切なこともあれば、途端に愛想を尽かしたり、突然怒鳴ったかと思うと、恋人まがいの発言をしてみたり。いわゆる”気分屋”って奴なのだ・・・この「神谷麗子(かみや・れいこ)」という女は。
 「あれ、その手どうしたんだ?」
 「あ? これ?」
 右手の甲、グルグル巻きになった包帯の下に、じんわりと血が滲んでいた。料理中に手でも滑ったのだろうか、あるいは道端でスッころんだとか。・・・ありえる、彼女は意外とおっちょこちょいだ。この間も、携帯電話をアパートの廊下に置き忘れていた。しかも、何日間も、ずっと。それで生活が成り立つというのだから、脳のネジが何本か外れているに違いない。
 だが、そんな彼女にも、時折眼光を鋭くさせる瞬間がある。吊り上がり気味の目が、獲物を狙うそれにように鈍く輝く。口元には自嘲気味の笑みを、口調にはお茶を濁すような淀みを。
 「ま、ちょっと面倒事があってさ」
 「はあ。面倒事ねぇ」
 「・・・ふふ、あんたも気をつけな。なんせロクデナシだからね。それに、世の中何があるか分かんないもんだよ」
 意味深にそう言い残して、彼女は隣室に消えていった。
 途端に辺りが静かになって、扉を閉める音だけが、廊下にじんわりと広がっていく。たった一瞬の静謐が、なぜかとても長く感じられた。
 ―――夜が、来る。
 
 

 [つづく]
 
[20XX/2/12]

カテゴリー: daydream believer | 1件のコメント

自作小説デイドリーム・ビリーバー 13話後編

 『あの・・・ハンゾーさん?』
 「ん?」
 手元から目を離すことなく、だが、少しだけこちらを気にかけていることの分かる仕草で、彼は生返事をした。自分の頭を繋いでいるケーブルが視界を隔てているせいで、はっきりとは分からない。でも、私のカメラアイは確実に、その繊細な表情筋の動きを捉えていた。
 『一つ、質問していいですか?』
 「なんだ、藪から棒に」
 戦闘で焼き切れた人工筋肉の補修を始めて、ゆうに五時間近く経過している。何重にも重なる腕の装甲を引っぺがし、繊細なパーツとパーツの組み合わせを解きほぐしてはまた組みなおしていく。ハンゾーさんの声には、疲れが滲んでいた。
 『今、俺生きてる!って感じたこと、ありますか?』
 「・・・なんだ、それ」
 『言葉のまんまですけど』
 「そうだな・・・あるにはある。あるには、な」
 『例えば?』
 ハンゾーさんは、一旦手元を止めて、こちらを見た。机の上に乗っけられた私の頭部。全身メンテナンスの時は全システムを停止させるのが普通だが・・・これは、私の”わがまま”だ。わざわざボディから指令系統のみを切り離し、外部電源に接続することで、私の”意識”を保ち続ける。「早く寝ると損した気分になる」といった中学生レベルの発想と起点は同じだが、それを実際にハイ・テクノロジーの粋を尽くしてやってしまうのが、”現代人”の厭味ったらしいところである。
 「例えば・・・真冬の日に風呂に入った時とか、腹減って死にそうな時にラーメンをすすった瞬間とか」
 『はぁ、意外と平凡なんですね』
 「聞きたかった答えと違うか?」
 私をからかうような声色を出しながら、ハンゾーさんはまた作業に戻っていく。私は無言を返答の代わりとして、しばし思考した。十時間前の光景が、脳裏によぎっては消えていく。目の前で砕け散る金属片。軋むような、砕けるような、削れるような、崩れ落ちるような、断末魔。”彼ら”は言葉にならぬ言葉を発して、私の目の前から消えていった。
 『彼らにも、そんな瞬間はあったのでしょうか?』
 ハンゾーさんは、答えなかった。手を止めることもなく、むしろ私に背を向けて、遠くの作業台に道具を取りに行ってしまった。その背中を見つめる私の眼は、ひどく空しい光を放っていたように思う。あくまで想像、あくまで主観の話だけれど。しばらく間があって、
 「そんなこと知ってどうする?」
 『・・・どうする、って・・・別に』
 「罪悪感があるのか?」
 『罪悪感、ですか』
 セキュリティレベル4。あのクラスの美術館にしてはやりすぎだと思ったし、ハンゾーさんもそう言っていた。だから、まさかあれほどの軍勢が待ち構えているなんて、想像だにしなかったのだ。
 私は戦闘を強いられた。戦闘用に純粋特化されたアンドロイド。戦うこと以外目的を持たず、存在する理由も与えられない尖兵。そんな連中との、”命”のやり取り。それ自体が嫌な訳ではないし、自分たちを守るためには必須の行動だ。葛藤もない、逡巡もない。それでもふと、思ってしまったのだ。「私は何をやっているんだろう」と。
 『うーん・・・その言葉は、少し違う気がします。でも、もし仮に彼らにも”心”があって、思いがあって、何らかの形で・・・例えば「生きたい」と思っていたりとか、考えていたりとかして、それを全部、全部私が奪ってしまったのではないかと思うと・・・嫌じゃないですか、そういうのは』
 「・・・それは、罪悪感じゃないのか?」
 『違います、多分』
 「そうか。・・・でも、それが『生きている』ってことなのかもな」
 えっと・・・。
 私は、何を聞いたらいいのか分からなくなって、考え込んでしまった。私は、”彼ら”と同類だ。”目的”のために作られ、そしてそのために課せられた役割を果たすだけの存在。今の行動の全ては、全部ある一点に繋がっている。誰かが作った”存在理由”という、ある一点に。
 私がもし「生きている」とすれば、それに向かっている瞬間だと思う。仮に戦闘用アンドロイドであれば、敵を排除し、守るべきものを守ろうとすること。それが「生きている」ことの証であり、実感でもあるはずだ。が・・・そこで、ハッとする。
 ハンゾーさんは、さっき何と言ったか。風呂に入ったり、ラーメンを食べたりする時に、自分の生を感じる・・・そう言った。でも、それがハンゾーさんの”目的”であるはずがない。ましてや”存在理由”なんかでもない。・・・いや、そもそもハンゾーさんに、特定の”目的”や、”存在理由”なんてあるのだろうか。アンドロイドにはある、人間にもあるはず。じゃあ、私には・・・? 分からない。「生きている」とは、何なのだろうか。
 『なんか・・・よく分からなくなってきました』
 「そりゃそうだろ。そう簡単に分かるもんじゃない」
 『そうなのでしょうか』
 「そうだよ」
 ハンゾーさんは、手元から目を離すことなく、事もなげにそう言ってのけた。しかし、やっぱり私にはよく分からない。この世には、必ず私を作った誰かがいて、私を形作った誰かがいて、そこには意志があって意図がある。だったらどこかに何かの結論であるとか、”答え”みたいなものが、ありそうなものなのに。
 「そんなもんねぇよ」
 ハンゾーさんなら、そう言うのだろうか? 私はもう聞かなかった。ただ、不思議と心地良く感じられる沈黙の中で、ひたすら自分の「過去と未来」について考えていた。一体私はどこから来て、どこに行くのだろう? 果てしのない思考の旅は、私をひたすらに迷子にさせた。答えの出る日なんて来ない。薄々勘付いていたけれど、私はそれでもいいと思ったし、それがハンゾーさんの言う、「生きている」ことなのかもしれないとも思った。
 『ハンゾーさん』
 「なんだ?」
 『何でも、ありません』
 手を止めて、こっちを見やる。首を傾げ、大げさに言った「ついに思考回路もバグったかよ」という言葉は、半分冗談のようで、半分本気にも聞こえた。私には、何故かそれが嬉しかった。
 表情筋はないけれど、もしあったとしたら、私はその時、きっと笑っていたと思う。

 状況は、どんどん悪化していた。
 双眼鏡片手に状況を見守る俺の横で、カーンはいまだに息を荒げている。通信障害によって、一時的に呼吸機能まで停止させられていたのだ。無理はないと同情する一方、半機械(サイボーグ)はこれだから困ると呆れるような気持ちも少なからずある。俺が咄嗟に回線を切断しなかったとしたら、まず間違いなくあの地下室でのたれ死んでいたことだろう。
 「それで・・・奴はどうしている?」
 風の吹きすさぶ摩天楼の屋上。カーンの声は、風に乗って今すぐにでも消し飛んでしまいそうだった。俺は双眼鏡から少し目を離し、チラリと彼の方向を見やる。そして、
 「今は止まっている。だが、それも時間の問題だぞ。俺のことはさておき、あんたは感知されているはずだからな」
 「どうなんだかな。私なんぞを相手にしようとするほど、奴は気弱ではないし、卑屈でもなかろう。それより問題は東京の市民だ。このままだと取り返しのつかないことになるぞ」
 大東京病院を、ちょうど南下するような形で”二人”は進んでいた。見覚えのある銀の鎧は乗用車の群れを悠然となぎ倒し、立ち向かう人間は触れずともバタバタと倒れていった。
 ”広域ジャミング”。その効果は絶大だった。人々が日常的に利用するインフラ設備は、ことごとく凍結してしまった。交通の麻痺、通信網の途絶。下手に近づけば、生命機能にまで影響を及ぼすような、甚大な”干渉”が施される。初めこそ対抗しようと躍起になっていた人々だが、今やもう散り散りに逃げ、もはや見る影もない。夕闇迫る大都会は、昼間の喧騒が嘘みたいに閑散としてしまった。彼女はさしずめ「無人の国の王女様」とでも呼ぶのが相応しいのだろうか。そんなレトリックが不要に思えるほど絶望的で、どうしようもない状況だったことだけが確かだ。そして・・・
 その彼女の後ろについて歩く血みどろの男は、自らを”ドミニオン”と名乗り、奇妙な高笑いと繰り返して大通りを闊歩し続けていた。きっとその目には、何もかもが新鮮に映るのだろう。瞳をキラキラと輝かせて、まるで新しい玩具をもらった子供かのようだった。
 「しかし、奴の目的は何だというのだ。何のサボタージュなのだ、これは」
 「俺に聞いて分かるものかよ。でも多分、目的なんて、ないんだろ」
 奴はただ、ひたすらに笑っていた。何がおかしいのか、俺たちにはまるで分からない。自ら”地獄”と称したこの世界に戻ってきて、ただ自由に破壊の限りを尽くすのみ。そんな心情を分かろうって方が無理なのかもしれない。いや、本当は分かっているさ。そんなものを分かることに、意味なんかないってことも。
 「とにかく、奴を止めないとな」
 「・・・なぜだ?」
 「なぜ? それを聞くのかよ。しかも、お前が」
 双眼鏡を置いて、目の下に隈を作ったカーンをまっすぐ見据えた。文字通り、曇った目をしていた。泥水のような、井戸の底の、ヘドロのような。「私には分からんよ」と彼はボソリと漏らし、乱れた金色の髪を、軽く右手ですいた。
 「貴様にとって、この世界なんぞどうでもいい。・・・そうだろう? 世に蔓延する低俗な価値観を嫌って隠遁し、そんな彼ら・・・いや、”我ら”を欺き続けてきたのが貴様だろう。今更そんなものを守って何になる? また下劣な思想が、踏んでも踏んでも蘇る雑草のように、息を吹き返すだけだぞ。”何にもならない”。・・・てっきり私は、”貴様が”奴を利用していたのだと思っていた。この世界に、今度こそ引導を渡すためにな」
 俺は双眼鏡を懐にしまい、思わず溜め息をついた。やれやれ・・・だ。もう、何かを言うような気分ではない。それにきっと、言っても分からないだろうとも思った。踵を返し、屋上の出口へと向かった。「おい、どこへ行く」。カーンの反応は、意外と早かった。
 「それも聞かなきゃ分からないのか? 何でも誰かから教えてもらえると思うなよ」
 「奴に物理的な攻撃は効かない。止めれるものなら、もう止めてる。軍も警察もお手上げなんだ。私がしているのは質問ではなく、忠告だよ、ハンゾー。いくらNINJAと言っても、できないことはある、今は退くべき時だ、とな。それともまさか・・・貴様、あのアンドロイドか?」
 「・・・・・・」
 カーンは苦々しい笑みと共に、心底の呆れをため息に乗せた。彼は知っているのだ。敵同士ながら、俺たちはそこそこ付き合いも長い。むしろ、彼ほど俺のことを知っている人間はいないほどだ。俺の生い立ち、経歴、因縁・・・そして、”あのアンドロイド”が俺にとってどういう存在であるのか。いや、俺たちにとって、と言うべきか。
 「理解したよ。納得はできんがな」
 「そりゃ、どうも」
 「屑鉄のために命を賭けられるのが人間の知性かと聞かれれば、私は即座にNoと答えるさ。でも、貴様は違うのだろう? 思想なのか理想なのか、価値観なのか、許容範囲なのか。何が違うのかは、いまいち分からんがな。いや、世捨て人の考えなど、分かってたまるものか」
 世捨て人、か。口内で反芻してみても、あまりしっくりと来なかった。世を捨てるとは、何なのだろうか。確かに俺は世間的には大犯罪者なのかもしれない。奴はそれを追う刑事なのかもしれない。でも、それが何だというのだろう。考えても答えは出なさそうだ。今は突き進むしかない。「とにかく、俺は行くぞ」とは、後ろ向きになりそうな自分を切り捨てるための言葉でもある。
 「自信家だとは思っていたが、そこまで強く言われると流石に感心するな。勝算はあるのか?」
 「さあな」
 「そう言う時の貴様は、いつも”そう”は思ってないだろ。あるんだな、秘策、とっておきの奴が」
 屋上出口のドアノブに手をかけつつ、俺は上着の中に手を伸ばす。”それ”は確かにそこにあって、冷ややかな攻撃性を剥きだしにしていた。物理的なパーツの連動が編み出す爆発的推進力。ああそう・・・「あるさ、俺には、このとっておきの骨董品(アンティーク)がな」。
 そこでやっとハッとして、カーンの奴は自分の胸元に手をやる。意識朦朧としていたとはいえ、これでは刑事失格だ。
 「待て!」と言葉が紡がれるより先に、屋上の扉は重い音を立てて閉じきっていた。階段を軽やかに降りていく俺の背後からは、微かに恨めしい叫び声が漏れ聞こえている。
 「畜生、盗人めッ!!」
 世捨て人だったり、盗人だったり。どうも俺は、シンプルには生きられない星の生まれらしい。

 ***

 街は、静まり返っていた。ビルの合間を吹き抜ける風の音と、自分の胸の鼓動の重なり合いが、私を満たす全てだ。怒号も罵声も、雑音もない。”力”が急速に強まっている証拠だった。体中を駆け巡る生命の”神秘”が、止まっていた時間を急速に動かした結果、私は逆に、全ての時間を止める術を得たのだ。
 目的があったのか? と聞かれれば、きっとあったはずだ。私には確信があった。自分が正しいという確信が、だ。しかし、確証が持てないのは、全てもうどうでもよくなってしまったからだ。時間が止まれば、感情も止まる。私は、止まる。私の存在は、全ての存在をただ存在させぬためだけにただ存在していて、その時間は、全ての時間をただ過去に置き去りにするためだけに今を刻んでいる。
 私は、憎かったのだと思う。私を過去にしようとした者たちのことが。ただ、それだけのことなのだと思う―――
 だが、どうしてだろうか。”こいつ”には違う感情が湧く。完結しようとしていた自分の時間が、また動かされる感覚があるのだ。視界に入った途端、私は目を細めた。警戒ではない。疑いでもない。これは・・・単なる嫌悪感だ。
 「今更、ここに何をしに来た。もう貴様の出る幕ではない」
 「それは俺の台詞だ。ここは何百年も前の人間が歩いていい舞台じゃない」
 「・・・どけ、邪魔だ」
 「断る、と言ったら?」
 返答は、不要だった。何か思考を紡ぐより先に、”マンマシーン”の銀のボディが、淡いネオンを反射して突進していた。アスファルトに深々と突き立てられた拳。岩の砕けるような重低音と・・・奴のせせら笑いが重なる。「そいつの限界なら、俺が一番よく知ってる。その距離じゃ、俺は打てない」
 「挑発しているつもりか?」
 すかさず、マンマシーンに追撃させる。だが、これもすんでのところでかわされてしまった。文字通り、”見切っている”という感じだ。自ら作り上げたからこそ、その性能の限界を知り、己のとるべき行動も分かっている・・・。「厄介だな」、それは言葉にしなかった。
 「なあ、こんなことして何になるんだ?」
 男は言った。
 「そろそろやめようぜ、もしお前が望むならだが」
 私は答えない。・・・答える必要がない。
 「・・・残念だな。あんたとはもう少し話せると思っていた」
 三度(みたび)、マンマシーンを男に仕向ける。だが、その瞬間、もう異変は起こっていた。男の手から何らかの物体がすり落ちるのを見た時、もう私に何かを判断する余裕はなかった。そこから一瞬の閃光が漏れ出で、続けて爆発的速度で大量の煙が視界を充満していく。
 ”煙幕”・・・NINJAの考えそうなことだ。
 「クソッ」と思わず悪態をつきながらも、次の瞬間にはもうマンマシーンのサーチライトを起動させている。「こんなことで逃げられると思ったのか!!」 現場から走り去る後ろ姿をかろうじて捉えながら、私もまた駆け出していた。
 灰色に満たされた視界をかき分け、マンマシーンと共に前方に猛ダッシュする。しかし、開けた視界の先、奴の姿はどこにも見当たらなかった。静まり返った”現代”の街並みが、ただ静止しているのみである。
 この短時間で、そこまで遠くに逃げられるとは思えない。で、あれば・・・
 辺りを見渡して、ピンと来るまでにそう時間はかからなかった。”過去の世界”には、こんなものはほぼなかった。だが、想像するに、”現代の世界”では、深刻な土地不足から”縦”に活動のスペースを求めた結果、”こういうこと”も珍しくなくなったのだろう。即ち、奴は地下に逃げ込んだのだ。この道路から繋がる階段を利用して。
 言葉を発するまでもなく、私とマンマシーンは足並みを揃えて、階段を突き進んでいった。中は、意外にも広かった。白を基調とした内装が目に痛く、通路はどこまでも長く、遠く続いているように思えた。また、構造は比較的シンプルで、隠れられる場所も少ない。だからこそより一層、不信感が募る。奴は、どこにいる・・・?
 それから、どれほど歩いたか知れない。曲がり角をいくつか曲がって、より大きな地下の通りに入り込み、またまっすぐ進み・・・そういったことを何度か繰り返して、私はやっと、奴を見失ったと認めることができた。まんまとしてやられた訳だ。そのあたりで、ようやく相手の意図を理解する。地下の閉鎖的空間、ここに閉じ込めることが奴の目的だったのだろう。方向感覚、位置感覚を失わせたところで、不意を突いて何らかの攻撃を試みる。ありがちな作戦だ。まんまとハメられてしまった自分が情けなくなると同時に、奴への怒りが沸々と湧いてくる。”怒り”・・・そう、この”怒り”だ。私を突き動かすモノ。”怒り”―――
 「長いこと、ご苦労さん。楽しかったか? 地下の迷路は」
 声の方向に振り返って、私は思わず目を見開いた。開きっぱなしになった巨大な扉の袂、忘れもしないあの男の姿がそこにあった。奥歯を噛み締め、次の一瞬! 既にマンマシーンは放たれている。だが、またそこで異変が起こった。今度は灰ではなく、黒だ。まぶしいほどの白から、視界全てを覆い尽くす暗黒への転落。照明が、落ちたのか。ガオンという金属のへこむ音には、まるで手ごたえを感じなかった。
 「貴様ッ!!! 何度私をからかえば気が済むのだ!!」
 マンマシーンのサーチライトを頼りに、男が元いた場所までフラフラと歩く。怒りに手が震え、半ば意識も朦朧としていた。私には確信があったのだ。奴はまだいる。ここにいながらにして、生きて私をせせら笑っている。それが、許せない。
 私が見たのは、歪に破壊された床板、それだけだった。そしてその瞬間こそ、私が最も無防備な瞬間だった。怒りに我を忘れ、動きを止めた。マンマシーンへの指示も忘れた。背中に鉛の弾が突き刺さるのを感じた時、聞いた銃声は、確かに二回だった。
 鮮血をまき散らしながら、私は床を転げまわった。いかに不老不死と言えど、痛みはある。腫れるような、刺さるような、熱せられるような・・・そんな悪意が体中を駆け巡っている。
 嗚咽と共に、致死量に近い血液が口元から零れ出た。立ち上がろうとするも、ガクンと足元が震え、再び地面に叩きつけられる。俄かに明るさを取り戻した視界には、火花を散らしながら、同じく仰向けに臥す銀色のボディと、それを見下ろすNINJAの姿があった。「貴、様ァッ・・・!!」 ・・・ほとんど、声にならなかった。
 「無様だな。気分はどうだ? 遠い未来の世界で年端もいかぬ若造にボコボコにされる気分は」
 「どうなるか、分かっているんだろうな・・・。この傷はやがて癒えるぞ。その玩具でまた私を射抜くか? やってみろ・・・何度でも構わん。貴様が飽きるまで、何度でもやってみるがいいさ」
 「大した自信だな。流石、というか。だが、俺には分からんよ」
 私の傷は、見る見るうちに癒えていった。血は乾き、黒く焦げた肌は剥がれ落ち、新たな細胞が次々に増殖をしていく。頬肉の痙攣が、ゆっくりと沈静化していく。
 「この世に永遠なんてものは存在しない。そう思えるようなものが仮に存在したとして・・・それは、単なるまやかしに過ぎない。お前の見ている”幻想”は、どこまでもリアルで、どこまでも空虚だ。そんなものを信じて、何になる?」
 「知った口を―――」
 「”ドミニオン(支配神)”、とか言ったか? 大層な名前だな。お前の言う支配とは何だ? 人間をまやかしで染め上げることか? 力でねじ伏せることか? だったら、もうとっくに人間は”支配”されちまってるよ・・・自分たちで作り上げた、下らない偶像にな。お前なんか来たところで、所詮役不足さ」
 足の筋肉に、力が戻るのを感じる。血が通い、死という名の悪意が取り除かれたその瞬間、動き出そうとした私を再び押さえつける何かがあった。全身に鉛を吊るされたような錯覚。両手をベタリと地面に着けて、グウゥとうめき声を漏らした。見えない力に押さえつけられているのか・・・いや、違う。
 逆だ。自分自身が、遥か上空を目指して、信じられないスピードで加速している。より正確には、”自分自身が”ではなく、床ごと、部屋ごとだ。周囲にある全てが、天を目指して超高速で移動している・・・即ち、この場所は―――
 「お前、まだ自分が死なないと思ってるだろ? それを当たり前にしすぎちまったからな。でも、そういうのはもう終わりだ。終わりなんだよ」
 「き・・・貴様ァァッ・・・!!」
 「名前で呼んで欲しいね。俺にも名前ってもんがある。ご先祖さまから頂いた、立派な立派な名前がな」
 一面純白だった部屋に黒の彩(いろどり)が差したのは、その瞬間のことだった。三方の壁にはめこまれたガラスの向こう、ところどころに白い斑点を宿した漆黒の空間。”夜空”―――いや、違う。誰かから、聞いたことがある。空の向こうに広がる無の空間。そこでは息を吸うことも、言葉を発することもままならない。絶対零度の真空世界においては、決して、命の萌芽は芽生えない。
 そこで初めて、私は自分の”運命”を悟った。
 「”軌道エレベーター”に乗った気分はどうだ? 快適だろ? 貨物輸送をする分にはさ」
 視界の端に、青く燐光を散らす球体が見える。その丸みを帯びた表面には、白と緑の斑模様が複雑なテクスチャを織り成し、まるで完成された芸術品の様相を呈していた。巨大で、壮大で、それでいて繊細で、儚い。その時、私は思ってしまったのだ。なんて私は、ちっぽけな存在なのだと。
 視界の下で、急速に光が小さくなっていく。と同時に、私の中で何かが、少しずつ砕け散っていった。心を塗り固めていた数々の虚飾・・・見栄や、自尊心や、高邁な理想、自分という名の偶像。
 私を見下ろす男の顔には、そんなものを全部見透かしたかのような余裕があった。そして瞳には、憂いがあった。
 「”ドミニオン”、本当はお前も分かってるんだろ? こんなことでは何も変わりはしない。何も守れやしない」
 「黙れ。貴様なんぞに―――」
 「ああ、分からんさ! お前が何に勝手に絶望し、何を諦めているのかなんてな。残念だよ、これで終わりなんてな」
 足の傷が完全に癒えるのと、男が銃を構えなおすのはほぼ同時だった。私はしなやかに床を蹴り、髪を振り乱しながら男に迫った。―――遅い、遅すぎる。極限まで洗練された”不老不死”の肉体を前に、男はほとんど成す術もなかった。何の手ごたえもないまま、衝撃に銃を落とし、そのまま私が上に覆いかぶさるような形で倒れ込む。白日の下にさらされた首筋は興奮に脈打ち、まるで蛇のようだと思った。そこに、牙を突き立てる。怒りの、牙を―――
 「最後に一つだけ、覚えておけ」
 開いた口を閉じる暇は、なかった。背後から聞こえた声に振り向こうとした瞬間、こめかみに突き刺さる何かを感じる。それだけではない。一発、二発、三発。爆音を背景にして、赤く染まる視界の端に、銃を構える銀色の鎧が見えた。その手に握られているのは、オートマチックのハイエンドモデル。電子制御でリアルタイムに発砲許可を得るシステムは凍結したはず・・・であれば、撃てるはずがない。撃てる、はずが!
 立ち上る硝煙、霞む視界―――。腕の中にさっきまであったはずの肉感が消え去った時、流れ出る血は、文字通り凍りついた。
 「そうか・・・。最初から、貴様だけだったのか・・・私が、見ていたのは―――」
 『その通り。全部ホログラムだよ。だって、巻き添えになるわけにはいかないからね。私はともかく、”あの人”はさ』
 ガラスのひび割れる音が、私にとっての最悪の嘲笑だった。鎧のマニュピレーターに握られた”ダブルアクションのリボルバー”は、弾を撃ち尽くした衝撃で、少し砲身が歪んでいるように見える。
 それが本物、これが現実。私には、何も見えてはいなかった。
 音もなく、感傷もなく、ただ私は真空に引きずりこまれた。銃弾がめりこんだ頭では、まともに何かを考えることはできない。ただ、絶対零度の空間が私を無慈悲に氷漬けにし、そして堕ちてゆくのみだ。地球から生え延びる白色の支柱は破裂し、そこから同様に、遅れて銀色の鎧が飛び出してくるのが見える。そうか、最初から、奴はこの覚悟で・・・
 タイミングが少し遅れて、声が届いてきた。
 遠い地球から、遠い未来から。
 「俺の名はハンゾー。”曾我部半三”だ」
 そこで私の世界は、終わった。果てしない、夢の世界は―――

 ***

 秒速10mの熱風にさらされて、俺は思わず口元を覆った。人里離れた大自然の山間。今更ながら、こんなところに立ち寄らざるを得ない自分の境遇を呪いたくなる。
 ”事件”の発生から24時間が経過し、事態は徐々に収束に向かいつつある。ネット界隈に特に目立った発信がないことを思うと、どうやら”奴”は、綺麗サッパリ塵になって燃え尽きてくれたのだろう。
 一度宇宙に放り出して、大気圏の熱で焼き尽くす―――
 いささか無茶なやり方だったが、こうするしかなかった。・・・と言うと、格好がつきそうなものだが、要するに、俺は楽な方法を選んだだけだ。お陰で貨物用軌道エレベーターは無期限の運航停止状態に陥っているし、各業界の株式相場は大混乱を極めている。東京の市民はというと、未曽有の脅威が去ったことにじんわりとした歓喜を少しずつ自覚し始めているが、その裏で暗躍していた俺の姿は誰も知らないし、ましてや軌道エレベーターの爆発事故と自分たちの今そこにある危機を紐づけて考えようとする変わり者なんて、ネットの隅っこにもいやしない。
 ただ、俺の”悪名”だけが幅を利かせていた。街中での目撃証言や、軌道エレベーター内で発見された弾痕などを根拠に、俺の介在を主張する声は、多数あったのだ。こういった時、必ず根も葉もないデタラメが流布する。人々は何の根拠もない情報に一喜一憂し、心の中に、立派な俺の偶像を着実に作り上げていく。そして、何かを分かった気になって、そんな自分が当たり前になって、逆に、何もかも曖昧で、漠然として、分からなくなっていくのだ。皆、それを薄々分かっていた。しかし、「何のために俺がそこにいたのか」は、誰にも分からなかった。
 草を踏み分け、岩を手すりにして、ただ前に進む。拭いきれない汗が目に染みて、しばらく立ち止まろうとした時、『おーい』と雑音交じりの電子音が聞こえた。俺はすぐに進むのが面倒になって、ため息を漏らす。それでも踏み出した一歩は重く、水気のない土が舞い散っていくのが見えた。
 『いやー、参りましたよ。多分こうなるだろうなとは思ってましたけど、まさか! 宇宙からスカイダイビングなんて、ねえ』
 粉々に砕け散った樹木の中に突き刺さるようにして、そいつは寝そべっていた。着地時に相当ダメージがあったらしく、体の各パーツは、そのほとんどが捻じり曲がるか、焼け焦げて擦り切れているかのどちらかだ。かろうじて頭部と認識できそうな部位の下には頑丈なボディがあり、一本だけになってしまった腕が高速で動いて自己主張をしている。「思ったより元気だな」、息を切らせながらそう言った。
 『そう言うハンゾーさんこそ、ですよ。落下地点の誤りは、ご愛嬌ということで』
 「あれだけ海に落ちろと言った」
 『努力はしました』
 「努力は、だろ? それ以外に何かしたのか?」
 秒速10mの熱風が木々を揺らし、俺の頬を撫でる。目を細めて遠くを見ると、あんなにまぶしかった太陽が、血の色に輝きながら山際に消え行こうとしている。背中には、シティライトが灯りつつある。
 『やだなぁ、それをできなくしたのは誰なんですか。まさか、無線機器を破壊するなんて』
 「バックアップパーツがあるだろう。現に、それを使って、奴を撹乱したんじゃないか」
 『はいはい、全て計算ずくってことですよね、分かってますよ。そのパーツが真空にさらされて、破壊されるところまで含めて、ね。でしょ?』
 「違うな。俺がこうやってお前を迎えにくるところまで含めて、だ」
 ”ドミニオン”の制御下にあるフェイスを解放するためには、彼女を一度ネットワークから切り離す必要があり、しかし、奴を出し抜くには再び接続をし直す必要がある。一方で、警察のからめ手を逃れるためには、再び彼女を”一人ぼっち”にする必要があった。宇宙に放り投げだされ、身を焼き焦がされ、さらには位置計測もままならず、誰とも連絡を取れず、いつ来るとも知らない助けを、ただただ待ち続ける・・・そういった、”孤独”な状態にする必要があった。誰かを、そして何かを犠牲にする作戦ならいくらでもあった。だが、全てができるのはこの方法ただ一つ。”たった一つの冴えたやり方”は、これしかなかった。
 『・・・でも、不思議ですね。私ね、信じてたんですよ』
 「俺が何の手がかりもなしにお前を発見できることをか?」
 『またまた、そんなこと言って。本当は分かってるくせに』
 「何をだよ」
 『自分の胸に聞いてみてください』
 最高に厭味ったらしい口調の電子音をほとんど聞き流しながら、俺はもう彼女を回収する準備に取り掛かり始める。まずは何から始めたものか。山奥だけに、荷物もそんなに多くは持ってきていない。困ったものだ、と首を傾げていると、
 『ハンゾーさん、私・・・一人きりで待っている時、夜風がとても冷たかったんです。聞こえるのは木々がかすれあう音だけで、夜空に瞬く星以外照らすものもなくって。私は機械ですから、寒いとかお腹が空いたとかは感じないし、お化け怖い!みたいなことを思いもしないんですけれど・・・何と言うか、その時に、”これ”なんじゃないかな、と思ったんです。
 私のこの時間は、いつか必ず過去になる。誰も知らない時間になる。そういうことが、何とも言えず、美しいと思う。私はその時、自分が「生きている」と感じました。こんな体で、こんな状態ですけれど、それでも、何だかそう、思ったんです』
 ・・・いつからだろう、俺はふと、疑問に思った。
 焦げと錆びでボロボロになったその腕に手を伸ばし、力強く掴む。金属のひんやりとした感触が手のひらを伝い、目の覚めるような思いがした。・・・いつからだろう。こんな当たり前の、壊れやすい今を、失いたくないと思い始めたのは。
 それでも時は進んでいく。未来はいつか、やってくる。俺の知らない時間、俺の知らない世界―――
 道のりは遠いかもしれない。ゴールなどないかもしれない。でも、俺はこの道を進みたいと思った。そうすれば、いつか必ず自分の中の”何か”を、信じられる気がしたんだ。
 孤独の中にこそ眠る、心の”真実”のようなものを。誰もが持つ、貴さのようなものを。
 「さあ・・・帰ろう」

 ―――この後。俺は、金属の塊を散々山道に引きずり回した挙句、道に迷って野宿をする羽目になる。餓死寸前かつ凍死寸前。その後の数日間は、まさに地獄・・・いや、”悪夢”のような日々だったが、それはまた、別の話だ。

 [21XX/10/10]

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自作小説デイドリーム・ビリーバー 13話前編

 人類が初めて記した物語のテーマは、「不老不死」だった。
 読んで字のごとく、老いることなく、死ぬこともない。永遠の時間を約束され、未来永劫朽ちることなく燃え盛り続ける命。
 人類は、なぜそんなものを欲したのか? ・・・なぜ、欲するのか。
 正直なところ、俺にはよく分からない。不老不死? 未来永劫? なんとも現実味のない言葉だ。今よりも果てしなく遠いところにあるがゆえに、その眩しいまでの輝きは、視界の端には入れられても、この手に入るとは思い難い。
 それでも人は、己が欲望のまま、その理想を追求し続けた。
 叶わぬ夢と知りながら、それでも手を伸ばし、伸ばした手を焼かれてもなお伸ばし、そして―――

 Daydream Believer…

 Episode 13 ”NIGHTMARE”

 「世紀末」という言葉が流行らなくなって、随分と経つ。百年前にも懸念された「99年問題」が何事もなかったかのように過ぎ去り、相変わらず増え続ける歴史の教科書のページ数に比例して、人々の自我や自意識は、年々薄くなっていっているように感じる。進化したインターネットは人間の脳内にまでその領域を進出=浸食させ、「考えること」と「検索すること」がほぼ同意義になりつつある、そんな時代。それでも旧来の”人間”で在り続けたい理想論者の老人と、合理主義の追及、人類の永遠進化、並びに”ネットの神様”を信奉する若者たちは、日々いがみ合い続けていた。
 旧来のいわゆる”国家”制度の瓦解に始まり、国際化の名の元に国連から敷衍された、ほぼ”新興宗教”と言っても過言ではない「新しい神話(ネオ・マイソロジー)」の提唱がきっかけとなって、人類はやっとのことで一つになった。肌の色も、生来の言語能力も、何も隔たりにならない。・・・と、いうのは、近代都市に住まう自称貴族たちの戯言に過ぎず、結局百年前からずっと野原やジャングルで走り回っている”下等民族”を、ほぼ非人間として蔑視することでしか、彼らは自分たちのアイデンティティーを確信できないでいる。矛盾や歪みはもはや日常と化し、どこからが常識で、どこからか非常識かということの確認のためには、どこかにある答えに倣えば良いに決まっているという無意識的錯覚も、今や人々にとって取り立てて問題にするような話題ではなくなっている。
 生活の自動化が人間の無意識領域を拡大させ、生きる意味を喪失させ、その一方で腹の肉の体積や下品な感性、非生産的な価値観ばかりを増大させていく。「下らない」と一言で吐き捨ててしまえれば話は早いんだが、とどのつまりは自分もその一員に過ぎないのであって、そこから抜け出すことも、社会を導くことも、人を心から愛することも、憎むこともできないのだと思うと、どうも問題はそんなに簡単ではなさそうだと分かる。でも、一つ確かなのは、俺は生まれてこの方、脳みそを人にイジらせたことはないし、誰よりもまともだと”思い込んでいる”ということだ。
 ・・・で、そういう奴が至る末路ってのは、大体いつの世も残酷なもので、結局周囲からの”無理解”だったりする。「時代遅れ」だの「仙人」だの「ヒッピー」だの「ステレオタイプの操り人形」だの・・・いろいろと言われたが、それは全部お前らのことだ。だから俺は、”盗賊”になるしかなかった。人類から奪われた何かを取り戻す。そのためには、俺は俺の良心と時間と、そして、ありったけの善意を全て、質(しち)に出してしまわなければいけなかった。そんな状況を、耐え、忍ばねばならなかった。
 「忍ぶ者と書いて、NINJA。私は、旧来の彼の祖国での呼び名に従って、彼をそう呼称しようと思う」
 そう・・・誰が言ったか、言わずでか、いつの間にか俺はそう呼ばれるようになった。

 <NINJA・ハンゾー>

 国際的犯罪組織と並ぶ懸賞金をその首にかけられているにも拘らず、”脳”がネットワーク上のどこにも存在しないから、その位置も、考えも、家族さえも、誰にも知られずにいる唯一の存在―――
 『でも、そうやっていられるのも、私がいるからですからね』
 「うるさい。静かにしてろ」
 『赤ちゃんは泣くのが仕事だそうです、犬は吠えるのが仕事。私も喋るのが仕事』
 「黙るのを仕事にしろよ」
 『黙りません。黙りませんとも。でも、どうしても黙って欲しいなら、その時は言ってください。二人で議論を交わして結論を出しましょう。いつまでかかるか分かりませんが』
 自律移動式汎用人型生命組織内臓系対テロ想定用・”金剛武装”。愛称:ラフェイナス(略してフェイス)。旧式のネットワーク接続と独自組成の端末回線を利用して駆動するこの金属の塊が、言わば俺のもう一つの”脳”だ。こんなに自由が利かなくて何が脳かと思ったものだが、自分も他人も、決して”言いなり”にならない点では共通している。諦めているわけではなくて、俺がしているのは複雑性の哲学の話だ。
 『ハンゾーさん、急いでください。そろそろコーダーが切り替わります。この位置はマズいですよ』
 「分かってる。だから集中してんだろ?」
 フェイスの頭部からせりだした緑色の回転灯が、ゆるゆると回っている。明滅を繰り返しながら銀の兜に鈍い反射光を与えるそれは、広域ジャミング波の発生装置だ。いくらネットワーク経由で俺の位置が相手に伝わらないとしても、各種物理的センサーまで欺瞞することは難しい。フェイスの任務は、まさにそういった俺の物理的補助であり、そこに”彼女”の自負がある。おっと・・・そう、言い忘れていたが、フェイスはその2mを超える体躯、無骨でメカニカルなシルエットとは裏腹に、”女の人格”を持っている。誰かさんの趣味のせいだとか聞いているが、詳しいことは知らない。俺が彼女に求めるのは、その銀色のボディに搭載された各種”機能”と、そして”ここにいる”ということの確かさだけだ。それ以外は、俺には関係がない。
 『あと二分です』
 嫌味っぽい電子音を聴き流し、俺は手元の針金をグッと引き抜くと、「カウントダウンは不要だ」と吐き捨てた。それと同時に、カランコロンと乾いた金属音が錠前の無力化を俺たちに教える。百年以上前に作られた鉄格子の扉は、あちこちが錆びてほとんど崩れそうになっていた。俺はそのノブをゆっくり引くと、音を立てぬようひっそりと、その部屋に潜り込んでいった。
 『この下ですね』
 「ああ、俺一人で行く」
 『ズルいですよ、私も見たいです』
 「ズルいもクソもあるか。でも、まさかの時は、スタンバイしてろよ」
 度重なる増改築が、こうした”不要な部屋”を生み出したと聞いている。俺の今いる「大東京病院」は、かつて刑務所だった施設を流用して建てられたものだ。大戦の戦火がその黒い歴史の多くを焼き払ったが、それでも形あるものを最後まで消し去ることはできない。一般的に”悪徳”と「新しい神話」が語るところの根源は、まだ厳然たる姿でそこにある。
 即ち、拷問室の類や人体実験のために作られた牢屋・・・あるいは、「檻」。いつでもその歴史的事実を隠蔽できるよう、巧妙にフロアの構造を複雑化し、一般に立ち入れないようにした結果、病院の地下は見事に迷路化=迷宮化し、誰も立ち入れなくなった。その後も何度か”手直し”がされたものの、結局関係者の死亡や行方不明が相次ぎ、その全貌を知る者はいないという―――
 床に備え付けられた取っ手を握りしめ、俺は力いっぱいに扉を開く。瞬間、カビっぽい空気がぶわっと蒸し返し、思わずせきこんだ。『あはは、間抜けー』と笑うフェイスを無視し、俺は階段を降りる。
 暗がりをライトで照らしながらの暗中模索は、意外にもすぐ終わった。一歩踏み込んですぐ、俺はその場所が目指すべきそれであると知ったのだ。一瞬の安堵。・・・が、同時に悪い予感もしていた。磨き上げられた大理石の床、暗闇に薄らと反射光を煌めかせるガラス製のカプセル。
 「フェイス・・・!」
 声は、広い部屋を何度も不気味に反響した。まるで、亡霊が囁いているようだと思った。
 「どうやら、俺の見込み違いだったようだな・・・。俺はてっきり、酒瓶や宝石の類があるものだと思っていた。しかし、そうか・・・そうだな、早いうちに気づくことはできた気もする・・・」
 さあ、ここからは、バカな話と思って聞いてくれていい。そんなあからさまな嘘に引っかかるのは、小学生までと思って当然だと思う。だが、あえて、俺の耳に入ってきた情報をそっくりそのまま伝えると、それはこうだ。

 「大東京病院の地下には、”不老不死の秘訣”が眠る」

 そんな戯言は、誰も信じようとしない。
 しかしそれは、”そんなこと”が全く実現できそうにない類の、空想話だからではない。案外簡単に実現ができそうで、実験や研究も公に進んでいて、今更世間から隠れて行うような類の行動ではないと、誰もが心から信じきっているからだ。
 しかも、この噂話にはさらに余計な尾ひれがついている。”不老不死の秘訣”とは、かつて大陸で局所的に百年ほど栄えたと言われる魔術文明の遺産であり、その奥義でもあるというのだ。
 地球上の歴史に突如現れ、ある日忽然と姿を消した魔術文明。その存在の確からしさからして実は怪しいものであって、歴史学者は今も昔も相変わらず、その証明のために頭を悩ませ続けている。「そもそもの起こりはどこにあるか?」「どうして滅び去ったのか?」「現代への影響はあるのか?」・・・未解明の事実が多すぎるゆえに、半ばオカルトまがいの扱いを受ける一連の事象を、無機質でキナ臭い現実と強引に結びつけて、大真面目に議論すること自体に無理がある。ましてやその物質的証拠とでも呼べるものが日本の地下にあるなんて、誰が信じるものか。
 それでも俺は、ここに至って、確信をしていた。間違いがない。これは本物だ。”盗賊”冥利に尽きる。これは・・・この、”ボディ”は!
 『生きている・・・んでしょうか。あ、これ私が言うのは変でしょうか』
 背後からゆっくり歩み寄るフェイスは、カプセルの中でギロリと動いた目線に気づいたのだろう。少しひるんだような声色でそう言った。
 まるでミイラのように干からび、浅黒く変色した肌からは”生命”をまるで感じないが、一方でその血のように赤い瞳の奥からは、強烈な悪意と嫌悪・・・いや、そんなまどろっこしいものでない。人間の持ちうる上で、最高に純度の高い”悪”そのものが感じられた。色つきの溶液に浸され、ビニル製の拘束具に包まれながらも・・・彼は、確かに、”生きている”。身動きも取れず、誰と話すことも許されず、暗い地下に長年幽閉され続ける状態を、「死」でないと断言できるならば・・・の話だが。
 「何なんだ、こいつは・・・」
 『検索してみますか? しても、分かんないと思いますけど』
 「いや、いい。お前の言うとおりだ、フェイス。それより、さて・・・こいつをどうしたものか」
 グルリとカプセルを迂回する形でゆっくりと歩み寄り、とにかくまずは観察に努めた。足の指先から頭頂に至るまで、なめるように見回す。好奇心にブレンドされた猜疑心が、まるで絨毯にこぼした墨汁のように、じんわりと心を内側から浸食していく。カプセルの男は、俺の動きに合わせて視線を動かし、まるで警戒心を解こうとしない。『ねえ、どうします?』「どうするも何も―――」 フェイスに振り返ろうとした、その時だった。
 稲光を思わせる強烈なフラッシュ。俺は思わず手をかざし、目を閉じた。それと同時に、甲高い聞き覚えのある声が部屋中に響き渡る。
 「動くなァッ! 貴様は包囲されているッ!! いいかァッ、一歩も動くんじゃァないぞッ! 一歩もだ! ハンゾーッ!!」
 フラッシュから数秒、やっとのことで慣れてきた目を薄らと開けると、カプセルの向こう側にはお馴染みの顔があった。ブロンドの長髪を一つくくりに結わえ、くしゃくしゃになったベージュのロングコートを颯爽と着流す。年齢不詳、時代錯誤の老けた青年は、名をカーン・”カンビュセス”・カンクーラーと言った。職業・・・”刑事(デカ)”。左手に握られた旧時代のマグナム銃の照準は俺の額ど真ん中を捉え、1mmも動くことがない。無骨でガサツそうな見た目と反し、緻密で精密な男だ。俺は半ば観念したかのように、ため息交じりの声を漏らした。
 「カーン・・・まさか、大陸の最東端まで追ってくるとはな・・・」
 「私は有言実行の男だ、ハンゾー。貴様を追うと言ったら地獄まで追う! 今日こそは、観念しろッ!」
 『その台詞、もう43回目』
 「うるさいぞ、貴様ッ! とにかく緊急逮捕だ。おい、お前らッ!」
 いつの間にか部屋を埋め尽くしていた警察官たちは、その声に合わせるようにして拳銃を構えなおした。この距離なら逃げ場所がないとでも思っているのか、狭い室内なら抵抗不能と考えているのか・・・どちらにしても、あまりにも浅はかだ。彼らには、失敗から学ぶ頭がないらしいと見える。「やめとけよ、どうなっても俺は責任なんざ取れん」というのは、決して警告ではなく、同情でもなく、言わばこれまでの感想みたいなものだ。聞き飽きたCDをケースに戻す時のように、無感動で、無機質なのだ。
 「カーン、悪いことは言わない。今すぐ退け。俺は今、この”動く死体”に興味があるんだ。お前たちに付き合ってる暇はない」
 「言うじゃァないか。私がここまでにしてきた努力を、よくもそんな暴言で踏みにじってくれたな。交通機関、通信、飲食店利用・・・様々な記録から貴様をさらった。が! 貴様はいなかった!」
 「ノーウェアマン(No Where Man)なのさ」
 「だが、神は私に味方したよ・・・。貴様の最近の盗品から傾向を割出し、人海戦術で世界各地の至るところに私の部下を配置した。その数、計200か所だッ! 200だぞ、ハンゾー! ・・・そしてその結果、貴様は私のところにドンピシャだ。私はな、ハンゾー・・・今、感動しているんだよッ! 実にッ!!」
 俺は、「知ったことかよ」と小さく漏らしつつ、呆れた調子でフェイスに手信号を送る。『アイアイサー』と返事があった時には、もう部屋中の拳銃が火花を散らして破裂していた。ネットワークを経由し、拳銃の中に”異常信号”を大量に送る。処理能力を上回るデータ量を処理しきれず、”誤作動”を起こした拳銃は、搭載された火薬共々燃え尽きてしまうという寸法だ。フェイスには、それができる。彼女曰く、「朝飯前」の単純作業ということだ。しかし―――
 「チッ、だが・・・”骨董品(antique)”が役に立ったな。スミス&ウェッソン・・・”旧時代の遺物”もたまには有用だ。ハンゾーよ、もう一度言うぞ。俺は―――」
 「逃げるぞ、フェイス!」
 「おい、最後まで聞けよッ!」
 人体に内蔵されたナノマシンによる認証システムを用いない重火器は、基本的にその使用を厳重に禁止されている。カーン程の男でなければ、持ち出すことはもちろん、骨董品(antique)として所持することさえ難しい世の中だ。そこが誤算だった。ここまで、容赦のない男だったとは!
 撃鉄が弾丸を圧(お)す爆音を聞きながら、俺は背後にダッシュを始める。だが、嫌な予感はあった。フェイスが俺に駆け寄り、銀の甲冑で弾を弾いたその時に、『あっ』と声が漏れ聞こえた。『ごめん。これヤバいかも』。俺は足を止め、大きくのけぞって頭上を仰ぎ見た。その瞬間、時が、止まる―――
 大きく見開かれた眼球。赤い瞳の周りには、それよりも濃い赤がじんわりと広がりつつあった。ピシリピシリと、神経を逆なでするような音を立てるガラスの亀裂の向こう側、”カプセルの男”の眉間から漏れ出す鮮血が、黒く、紅く、その周囲を染め上げていく。俺は、常識的判断で、一瞬”男”が死んだと思った。だが、グルリグルリとうごめく眼球を見て、すぐにその考えを捨てた。そして、死の色に染まった液体が、ガラスの破片と共に飛び散るのと同時、”男”はその身を大理石の床に躍らせた。
 カーンが、息を呑むのが分かる。俺とフェイスもその場に凍り付いて、まるで生まれたての子馬でも見守るかのように、ただただ・・・ずっと立ち尽くしていた。
 「何・・・なんだこいつは・・・。生きて、いるのか」
 「お前、何も知らないのかよ。俺も、何も知らないけどさ・・・」
 ゴクリと唾を一つ飲む合間に、”カプセルの男”は、その枯れ枝のような腕をにゅっと伸ばし、粘ついた音を立てながら力強く床を叩いた。体全体をひねり、ねじるようにして身を起こす。バチバチとした鋭い音は、経年劣化した拘束具が弾け飛ぶ衝撃によるものだ。金属製のパーツは床に跳び、額から落ちる血がその後を追うようにして這っていく。俺は一歩後ずさりをしながらも、その様から目を逸らすことができずにいた。モップのようにゴワゴワになった長髪。その向こう側から漏れ出ずる、赤い眼光。俺は、それに射止められていたのだ。
 「う・・・うぁ・・・あ・・・」
 その声は、時に壊れた管楽器のように頼りなく、今にも崩れそうで、だが一方瞬間的に透き通ることもあって、まるで電波状況の不安定なラジオを思わせた。その後も、ポツリポツリと何事か漏らすが、使われているのは古臭い言語だ。何分(なにぶん)俺も旧時代の無知な人間なもので、何を言われているか、まるでサッパリ分からなかった。
 「・・・ドイツ語だ」
 「分かるのか」
 「祖国の言葉だ。生まれはこっちでも、一通りは話せるさ。しかし・・・私の祖父の祖父が使っていたであろうほど、古い時代の訛りがある。かろうじて聞き取れる、といったところかな」
 「で、奴は、何と・・・?」
 カーンは、目を細めて黙った。そして言葉を慎重に、選びに選んだ様子で言う。「『私の・・・自由。私の、時代。私の・・・”世界”』」
 「私の”世界”、だと?」
 気でも狂ったのか? いや、もともと狂っていたのか・・・。俺は怪訝な表情でもう一度”カプセルの男”に向き直り、憮然たるその姿を眺めた。その上で、改めて思い返す。
 「不老不死」―――まさかそんなものが本当にあったとして、人間はどうなるのだろう。いや、わざわざ問わずとも分かる。俺は、サッパリごめんだね。それがいかに計り知れないパワーを持っていて、いかに絶大なる幸福をもたらすとしても、きっとそれを”感じること”ができないと思うからだ。
 人間は、”終わり”があるから生きていけると思う。何かが一つずつ終わっていって、次の新しい何かが始まるからこそ、振り返って、あのことはどうだった、あの時はこう思っていた・・・と考えることができる。”感じること”ができる。走り続けるのは、いつか止まるためだ。旅に出かけるのは、いつか帰るためだ。生きるのも、いつか死ぬためだと、俺は思う。
 それが無くなった人間はどうなる・・・? 自分に”終わり”が見つけられない人間は、自分で偽物の”終わり”を作り出すのではないだろうか。破滅的運命、他罰的知性。強大すぎる自己顕示欲によって、自分の世界がゆっくりと閉じていく感覚。頭の中がすぼんで、思考の渦はパタリと止まる。何も受け入れられなくなって、何も分からなくなるが、そのことにさえも気づけない、そんな世界。文字通り、自分という時間が”永遠”を迎えるのだ。”終わりがない”のが、”終わり”。そんな言葉を、誰かが言っていたな。
 そして、そういう奴らは最後に必ずこうなる。自分の中に作り出した”永遠”を、自分だけではなく、他人(ひと)の中に見出そうとする。自分の抱く幻想を、どうにかこうにか正しいものと信じたい・・・と思うようになる。いや、そんなことも思わなくなるのか。そうやって傷をなめあうそのうちに、それにすっかりと慣れてしまって、居心地が良くなってしまって・・・そう、もうこれで本当に”お終い”だ。人類は、止まってしまった。偽物の”永遠”を信じ、偽物の理想を掲げ、偽物の自分で生きていく。そこに進化はない。待っているのは、”悪夢”だけだ。
 だから俺は、盗もうと思ったんだ。宝石や、金貨なんかじゃない。人類から奪われてしまった”時間”を、本当の”終わり”を。そのためには―――
 「・・・フェイス、警戒しろ。何か、来る」
 『ええ、嫌な予感がします』
 そう彼女が言い終えると同時に、男の額からの血が、ピタリと止まった。
 最初は小さな異変だった。視界の端に映る埃、指の小さな痙攣。誰もが気のせいだと思う中で、フェイスだけが敏感にその危険性を察知した。言葉よりも先に体が飛び出る。大理石を踏み壊す激しい炸裂音と同時、銀の拳が”カプセルの男”を捉えた。骨格を歪め、肌を切り裂き、その身は一瞬にして襤褸切れと化した。地を離れ、警官の群れを突き崩し、壁にほぼめり込むような形で、すり身になった肉体がかろうじて貼りついている状態。だが・・・!
 『ダメだ。遅かったよ。・・・こいつ、頭の、中に―――』
 鶏を絞殺したような金切り声が、部屋中に響き渡った。俺は思わず耳を塞ぎ、目を見開く。視界には当然、その男を捉えて。
 「これは・・・まさか、干渉しているというのか。私たちの、脳にッ! バ、バカな・・・なぜ奴にそんな真似ができるのだ・・・”あんな奴”に、なぜ!」
 「ただの骨董品(antique)じゃねーってこったろう。見ろ、奴の致命傷が・・・治っていく。”不老不死”・・・なるほど、なるほどな」
 「ハンゾー、貴様ッ! 納得しとる場合か!」
 頭を押さえながらくずおれるカーンを視界の端に捉えながら、俺はハッと鼻息を荒げた。”そんな場合”でないことぐらい、俺が一番熟知している。脳を機械化していないからこそ、俺だけが今正気を保っていられるのだ。周囲の警官は一人残らず気を失い、気丈なカーンでさえ、ほぼ白目を剥いて半死半生の死に体だ。と・・・なれば、戦うのは俺だし、立ち向かうのは俺だということだ。粉々に砕けたはずの骨をしならせ、垂れ落ちる血を体にまとい、その男は、ニタリと口元を歪めた。そして、
 「ズイブン、ト・・・ヨユウ、ソウダ、ナ」
 ・・・喋った。ドイツ語なまりの英語。まさか、この短時間で学習したというのか。俺は面食らい、思わず笑みを漏らす。「出来の良い人形だな。壊すのがもったいないぜ」、それは精一杯の強がりだ。
 「コワス・・・? ツェアシュトーレン・・・ソウカ、ククク・・・」
 「何がおかしい?」
 「形、アルモノハ・・・いつか、カナラズ壊レル。・・・クダラナイ、だろう? ワタシは・・・私は、そうオモウ」
 「そうかい。だが、戯言はそれぐらいにしてくれないか。今の人類はさ、俺みたいにお前の我がままに付き合ってられるほど、”暇”じゃないんでね。地獄に、帰れよ!」
 「地獄? バカをイウな・・・」
 その時、カタカタと何かの震えるような音と同時に、大きな影が俺の前に立ち塞がった。影の向こう側からは、小さな忍び笑いが、雨音のようにシトシトと漏れ聞こえてくる。銀の甲冑を這うようにして、光なき眼光を食い殺すようにして。俺はその時に、全てを悟った。そして、もう一度思う。「不老不死」―――まさかそんなものが本当にあったとして、人間はどうなるのだろう。いや、まさにそれが実現されてしまった今、人類は―――
 「私は、戻ってきたのだよ。コノ”地獄”というヤツにな!」

 [To Be Continued]

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