普通に映画レビュー2013年8月

第585回「パシフィック・リム」 (監督:ギレルモ・デル・トロ)
 深海の次元の裂け目から現れた「カイジュウ」に対抗すべく、人類は「イエーガー」と呼ばれる巨大決戦兵器を開発。二人のパイロットの神経を繋ぐことで、絶大なパワーを発揮するこの兵器の登場によって、人類に再び平和が訪れたかに見えた。しかし、カイジュウの出現頻度は日に日に増し、さらに戦闘力も向上していく。窮地に立たされた人類は、乾坤一擲の最終作戦に買って出る・・・
 「パンズ・ラビリンス」や「ヘルボーイ」で知られるギレルモ・デル・トロ監督の最新作。あらすじにも書いた通り、往年のロボットアニメよろしく巨大ロボと怪獣がドツキあいを”いてこます”という、アホ極まりないコンセプトを、ハリウッドでガチな陣営整えて作ってしまったという意欲作。正直この時点でもうほぼ合格点だと思うが、中身はというと、ちょっと肩すかしな部分も。
 CGによるロボットや怪獣の描写をはじめとした映像面は概ね満足。夜のシーンが多いので、ロボットのディティールがはっきり捉えられないのは少し残念だが、ライトで照らされる姿も美麗なのでまあ良いかな、と。ただ動きが高速すぎるのはどうかと思うところもあって、もうちょっと描写が細かければもっと楽しめたのにとも思う。それでも、香港での市街戦、海底でのラストバトルは大興奮です。「もっと見たかった」というのが正直なところ。
 一方で、人間ドラマ、パイロットの話はあまり面白くなくて、吹き替えで見たのだけれど、正直声優があの豪華さじゃなきゃ楽しめなかったかも。杉田智和、林原めぐみ、玄田哲章、浪川大輔、池田秀一、古谷徹・・・って、(杉田以外)どこの連邦vsジオンだって布陣ですw 脇を固めるのも、千葉繁や三ツ矢雄二といった大御所で、「何事!?」という感じ。ここは、日本のスタッフにかなり助けられている箇所。
 とまあ、要素を一つ一つ見るとどれも悪くないのだけれど、何となく不完全燃焼感が残ってしまっているのは、「やりきった感」を感じないからだと思う。構成面から見ると、やはり戦闘シーンはまだまだ少なく感じるし、ラストに向けての盛り上がりや、世界の終焉に対する危機感、「どうしようもない」感といったものが、描き切れていないと思う。それは演出の拙さもあるし、脚本の完成度の低さもあると思う。
 しかしそれ以上に大きいと思うのは、制作サイドの「理解不足」ではないか。ギレルモ監督をあまり知らないので推測になるが、この人は「ロボットアニメの何たるか」や「怪獣特撮の何たるか」を多分分かっていないと思う。そういう物に対するオマージュ作品ではないと本人が言いきっているらしいが、それだとマニアの琴線を揺らしきれないのは当然で、やっぱりリスペクト、オマージュは必要だし、その上でそれ以上の「愛情」を注がなければ、こういう作品は成立しないものです。
 せっかくの舞台設定、せっかくの物語を、活かしきれていない。もうこの領域は完全に理屈ではなくて、「俺たちがこれをやるんだ!」「夢のような作品を作るんだ!」という思いがどれだけ感じられるかというところ。私はまだまだ凄いものが作れると思うし、期待もしている。やはりまだ、中途半端だ。そういう意味で、続編に期待。まだいけるよ、まだ!
 
 
第586回「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」 (監督:ブラッド・バード)
 殺し屋サビーヌ・モローによって核発射コードが奪われた。IMFエージェントであるイーサン・ハントは、モスクワの刑務所から脱獄。核発射コードを悪用しようと目論む「コバルト」なる人物の調査のため、クレムリンに潜入するが、何者かによってクレムリンが爆破されてしまう・・・
 「ミッション:インポッシブル」シリーズ最新作。監督は、「Mr.インクレディブル」を手掛けたブラッド・バード。製作総指揮は主演のトム・クルーズほか、前作で監督を務めたJJエイブラムスが担当する。
 前作もそうでしが、非常にストレートな「スパイ・アクション映画」として高い完成度を誇る。シナリオは分かりやすく、でも単純になりすぎないよう様々な伏線を張り巡らせて、飽きさせない作り。ジェームズ・ボンドよろしくのスーパー兵器の登場や、スタントなしでのアクションなど、ヴィジュアル面での強化も見られる。
 特にブルジュ・ハリファでの一連の作戦シーンが見もので、少ない制限時間や様々なトラブル、無理難題へのチャレンジといったハラハラ要素が満載で、とにかく画面から目が離せない。逆にここが面白すぎてクライマックスで尻すぼみした感じもなくはないが、全体としてはある一定のテンションは維持できていたのではないかと思う。
 ジェレミー・レナー演じる新キャラ、分析官ことブラントが良い感じ。今回はレギュラーだったルーサーなしの4人チームだが、この4人のチームワークも見どころだと思う。それぞれのキャラにドラマがあって、うっとうしくない程度に物語に組み込まれている。ブラントとイーサンの物語が収束するラストシーンは鳥肌モノ。
 3そして今作と良作が続いたことで、今後のシリーズ展開の土台が確かになった感覚があります。くれぐれもマンネリ化せぬよう願いたいですが、次回作以降にも大いに期待します!
 
 
第587回「96時間/リベンジ」 (監督:オリヴィエ・メガトン)
 元CIA捜査官のブライアン(リーアム・ニーソン)が誘拐された娘を救うために奔走する「96時間」の続編。邦題にもあるように、今回のテーマは「復讐」。ブライアンによってボッコボコにされた犯罪組織が、殺された者たちへの敵討ちのため立ち上がる。ブライアンは果たして生き残ることが出来るか?
 今回の舞台はイスタンブール。そして、さらわれるのは娘ではなく、なんとブライアン本人というのが新鮮です。何とか敵の手を逃れた娘に携帯電話で指示をしながら、自分も助かるためにあの手この手を尽くしていく。ただ追うだけではなく、追って追われて守って攻めて、とシチュエーションがコロコロ変わるのが面白い。「また娘がさらわれて助けに行くだけの続編」というマンネリ化を上手く回避している。
 一方で、設定が変わってしまったことによる弊害もある。まず、前作で一番のキーポイントだった96時間というタイムリミットがなくなってしまったのは大きい。作品全体の緊張感が減衰し、何となく物足りない感覚がある。娘との共闘シーンが終わってからクライマックスに至るまでに盛り上がりがなく、かなりもったいない感じがした。
 前作監督ピエール・モレルの不参加も大きいと思う。アクションは悪くないが、あと一手あればなあという感覚が強い。ただし、及第点はあるだろう。
 良くも悪くも、「スタンダードなアクション映画」に落ち着いている。取り立ててここがダメというのもないが、これがめっちゃ良いというのもない。シリーズとしてはここが潮時だと思うし、モレル監督には新作を期待します!
 
 
第588回「ダイ・ハード/ラスト・デイ」 (監督:ジョン・ムーア)
 「ダイ・ハード」シリーズ最新作。なんと、第1作目から25年も経過しての新作である。当然ながら主演はブルース・ウィリスだが、この親父、25年前と何も変わっていないのがすごい。
 ストーリーは、ハゲ親父マクレーンの息子がロシアで悪さをしたという噂を聞きつけ、迎えに行くところから始まる。マクレーンはいつもの悪運属性が発動し、なんのかんのでロシア政府に深く根ざす陰謀の一端に関わることに。シリーズ初の海外ドンパチ。悪人は皆殺しの痛快アクション。
 ・・・とまぁ、ある意味いつも通りのこんな感じなんだけど、前作前々作が割とサイバー寄りというか、情報戦に焦点が当たっていたのに対し、今回はとにかく泥臭いカーチェイスや銃撃戦が多い。しかし捉えなおすと、それは何のひねりもないただのアクション映画ということである。
 冒頭のカーチェイスや中盤のハインド戦はアツい。とにかく金のある映画は違うぜとでも言わんばかりの大迫力で見ごたえバッチリだが、残念ながらストーリーがあまり面白くないためノリきれない感じが強い。この色合いはずっと最後までそうで、親子の物語もあまり頭に残らない。マクレーンという名前のハゲ親父がドンパチするだけの映画に、ダイ・ハードというタイトルをつけておきました・・・というか、まあそれは昔からそうなんだけども、あまりにひねりがなさ過ぎて、シリーズ5作目の感動もなければ、これまでの積み上がりも感じられない残念仕様。
 アクション映画なんだからアクションが良ければそれで良いじゃないか、とも思うんだけど、やっぱりもうちょい何かないと見れないなと思う。最後の方もグダグダだしねw あと、「ラスト・デイ」とか思わせぶりなこと書いてるけど、普通に続編あるってどういうことですか。邦題担当者は謝罪すること。
 このシリーズもそろそろ寿命かな~と思う一方、ブルース・ウィリスにはこれからもハゲ親父であり続けて欲しいと思いました。
  
 
第589回「ミッドナイト・エクスプレス」 (監督:アラン・パーカー)
 トルコを舞台にした刑務所モノ。実在の人物ビリー・ヘイズによる自叙伝を映画化したもの。監督は、「エンゼル・ハート」などのアラン・パーカーが務めている。タイトルにある「深夜特急」とは、脱獄を意味する隠語。
 やたらとよく耳にする「トルコの刑務所は最悪だ」という台詞に得心がいきました。もちろん脚色は大いにあるのだろうけど、刑務所での地獄のような生活を非常に生々しいタッチで描いている。人権という言葉の存在しない世界は、暴力や理不尽に満ち溢れており、そこで何とかもがき生きようとする主人公ビリーの姿は、非常に頼りなく、健気だ。
 とにかく、苦難の連続。と書くと陳腐なのだが、その言葉がピッタリ。心がよく折れないなと本当に感心する。本国からも見放され、裁判の結果もひっくり返され・・・しかも刑務所の中の状況はどんどん悪くなっていく。途中でビリーの感情が爆発するシーンがあるのだが、そこには「人間」の脆さみたいなものが表出していて、胸を打たれた。人はこんなになっても生きられるのかと、こんなにも残酷になりえるのかと。そういう胸の奥にズシリと沈むような感動が、ずっとグルグルし続けている。
 実話だからとにかくすごい、というのでもなく、映画として、作品としての面白みもしっかり盛り込まれていると思う。最悪の状況をどう脱するのかというスリルや、この後どうなってしまうんだろうというハラハラ感。そういったサスペンス要素がこの映画を面白くしているのは間違いがない。
 こういう映画こそ見なければいけないと思った。胸に響く傑作。
 
 
第590回「ボーン・レガシー」 (監督:トニー・ギルロイ)
 記憶喪失のスパイ「ジェイソン・ボーン」を主人公とした三部作の続編。当初は2,3を手掛けたポール・グリーングラスが監督を担当する予定だったが、急きょ降板。主演マット・デイモンも降りたことで、新たにジェレミー・レナーが主演として抜擢され、監督は三部作の脚本を手がけたトニー・ギルロイが担当している。
 物語は三部作から地続きで、ジェイソン・ボーンの暗躍によって混乱するCIAが、「アウトカム」と呼ばれる計画の中止のために動き出したことから始まる。アラスカの奥地で訓練を続けていたアーロン・クロス(ジェレミー・レナー)は、CIAに命を狙われていると知り、反逆を目論む。
 スパイ・アクションの新時代を築いたと言っても過言ではない「ボーン」三部作の続編とくれば、一体どんなものが見られるのかと胸躍らせたものだが、何と言うか・・・いろいろと残念な作品です。監督と主演の降板はやはりかなり大きくて、作品のイメージはこれまでと似ているものの、どうしようもなく”パチモノ感”がある。
 とはいえ、人並み外れた知力、体力を持ち合わせた主人公が、組織的に動く巨悪に対して反撃していくという大筋は似通っている。洗練されたアクションシーンや、こちらの想像の斜め上を行く戦闘のアイデアなども健在。孤立した環境の中、相手を欺きながらギリギリの戦いを強いられるハラハラ感、そこを打開する爽快感も継承。序盤の状況理解に少し時間がかかるが、ノリ始めると物語にどんどん引き込まれていく感覚が楽しい。
 一方で、新主人公の周辺状況をはじめとした、新たに追加された設定にどうも違和感がある。話を面白くするために目新しい要素を付けたそうというのは分かるのだが、三部作の流れを汲んでいないので何となく受け入れられない。ドラマのテンポも悪くて、ノンストップサスペンスだった三部作に比べると、妙にゆったりしている感覚がある。会話が聞けない、という感じ。これらの結果、三部作っぽい別作品に仕上がってしまった。一言で表現すると、蛇足である。
 スピンオフとして機能するか、それとも蛇足になるかは絶妙なラインだが、三部作への思い入れが強ければ強いほど、違和感は強くなる気がする。実は単体で見ればそんなに出来は悪くなく、むしろ普通に楽しめたりするのだが、過去シリーズを思うと、素直に評価できなくなる。
 これからも5作、6作と作っていく予定のようです。これはこれで楽しもうと思うけど、どこかでひっくり返してくれないと困るなーとも思う。頼む!
 
 
第591回「劇場版獣電戦隊キョウリュウジャー ガブリンチョ・オブ・ミュージック」 (監督:坂本浩一)
第592回「劇場版仮面ライダーウィザード IN MAGIC LAND」 (監督:中澤祥次郎)
 絶賛放送中の特撮ヒーロー番組「獣電戦隊キョウリュウジャー」と「仮面ライダーウィザード」の劇場版作品。例年通り二本立てです。
 まずは、キョウリュウジャー。仮面ライダーダブルでのタッグがまだ記憶に新しい脚本三条陸、監督坂本浩一の黄金コンビ。これは期待できる!とオープニングのクレジットですでに高まっていた期待が、見事叶えられました。
 とにかく、30分間が濃密! 坂本監督の持ち味である「とにかく豪華に何でもやる」というスタンスが、キョウリュウジャーというシリーズの持つ明るく豪快な作風とマッチして、非常に爽快感のある作品に仕上がっている。多少説明不足や唐突感があっても、勢いで押し切る! 後は、ただ歌って踊って暴れて好きに楽しめ!という分かりやすさがあって、終始安心しながらも、興奮に手に汗握って視聴出来た。
 映像面でのサービスも良くて、普段見れないようなド派手な演出や、劇場版ならではのものが目白押し。中でもフルCGで描かれる巨大戦は、若干反則気味ながらも、スピーディな演出が助けていたのでかなり楽しく見れた。
 王道展開なストーリーも良いね。とにかく楽しい30分でした。
 お次は、ウィザード。こちらは・・・正直微妙。怒涛のごとく展開していったキョウリュウジャーに比べて、尺がある分スローペースな物語の運びに物足りなさを感じる。それでもしっかり盛り上げるべきところで盛り上がってくれればいいんだけど、何となく話の進み方が工程的というか、「これがあって、これがあって、次がこれ」というようにブツ切り感があるので、どうもノリ切れない。
 魔法が当たり前になった異世界の描写は良かった。お金の代わりが魔力とか、みんな箒持ってるとか。これから何が起こるんだろうとワクワクさせてくれるんだけど、そこからがない、という感じです。
 劇場版ならではのサービスという点でも中途半端で、例えば既に死んだフェニックスを含む敵幹部三人が一斉に襲ってくるシーンがあるんだけど、全然「こいつらが来てしまった」感がないというか、普通に戦って普通にやっつけちゃうもんだから、感動も何もありゃしない。連続フォームチェンジやオールドラゴンもTVでやってるからそこまで目新しさがない。ウィザードとビーストの共闘シーン及びバイクでメイジ軍団から逃げ回るところは割と良かったけど、こういうものをもっと積み重ねて欲しかったと思う。
 とまあ、少し尻すぼみなのが気になりましたが、今年も楽しかったです。来年のライダーは鎧武! キョウリュウジャー後半戦も波乱の予感だし、これからも期待しています。
 
 
第592回「仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦」 (監督:金田治)
 昨年のGWに公開された仮面ライダーとスーパー戦隊のコラボレーション作品。全ライダー、全戦隊の合計240人ものヒーローが一堂に会するという意欲作。地上波での放映があったので視聴しました。おそらく、ところどころカットされています。
 全体の満足度という観点から見るとかなり微妙。とにかくたくさんヒーローが出てくるのは見ていて派手なんだけど、一つ一つのキャラの掘り下げがないから、「とりあえず出ているだけ」という状態になってしまっている。話の都合上仕方がないとはいえ、歴戦の勇士がゴーカイレッドやディケイドごときにバンバンやられていくという展開にも無理があると思う。
 特定のキャラクターがフューチャーされる点については、良し悪し。ブレイドや龍騎とゴセイジャーのタッグが一番良かったかな。オーズのレンジャーキーはもっと活躍しても良かったと思う。全体的に偏りが酷くて、まあそれも「仕方ない」んだけど・・・その「仕方ない」を連呼しなければ見れない作品というのも事実である。見ていて辛いなーと思う。
 こういうのはお祭り映画だから楽しめればいいじゃんと思うんだけど、その楽しめればも満たせていないのが問題かな。あんまりおススメできません。
 
 
 えー、遅くなりましたが、8月分です。割とたくさん見ましたねー。ドンパチ系のものに偏っているのがアレですね。でも、なんか最近そんな気分なんですよね。9月はあんまり多くは見れないと思うけど、ボチボチ更新は続けます。
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